灘五郷を歩き、伝統の日本酒を巡る

灘五郷を歩き、伝統の日本酒を巡る
カストロ・ロイネル

Contributor : カストロ・ロイネル

Nationality : コスタリカ共和国

灘五郷を歩き、伝統の日本酒を巡る

日本の生活で楽しみなことの一つはお酒。コスタリカはサトウキビ由来のラムが主流でカクテルにして飲むことが多いですが、日本のお酒は食事と合わせて銘柄を選べて、バリエーションが豊かで驚いています。日本の伝統的なお酒である日本酒の酒蔵を見学し、味わいの秘密を探ってきました。

 

 

灘五郷に息づく、受け継がれる日本酒の伝統

 

神戸市灘区から西宮市にかけての「灘五郷」と呼ばれるエリアは、日本一の酒どころとして知られ、日本酒の生産量が最も多い場所。酒造りに最適なミネラルを多く含む硬水が涌くことや、「酒米の王様」として名高い「山田錦」の生産地が近いことなど、酒造りに適した様々な条件に恵まれ、700年以上の歴史を重ねています。

 

このエリアは1995年の阪神大震災で甚大な被害を受け、酒蔵の多くが倒壊。貯蔵されていた酒も失われました。震災後、蔵元たちは伝統を絶やさないという強い意志のもと、復興に尽力しました。

 

今では震災を乗り越えた約30もの酒蔵が点在し、見学や試飲が楽しめる酒蔵も。今回は灘エリアを熟知したガイドが4つの酒蔵を案内するツアーに参加。ツアーガイドが英語で案内してくれるので安心です。では、ほろ酔い気分を楽しんできます!

 

 

1つめの酒蔵。まずは「浜福鶴」 で現在の日本酒造りの工程を見る

 

浜福鶴吟醸工房は阪神本線「魚崎」駅から徒歩約10分

 

最初に訪れた「浜福鶴」は、1900年頃から灘五郷エリアで伝統の酒造りを継承してきた酒蔵です。入り口に吊り下がった不思議な丸い玉……これは「杉玉」といって、伝統的な酒蔵のシンボルなんだそう。日本酒の新酒が出回る12月から3月頃、酒蔵を訪れる人々に「新酒ができたよ!」と知らせる目印で、葉の緑色が日が経つにつれて茶色へと移り変わることから、日本酒の熟成度がわかるのだとか。新酒を祝うワクワク感が伝わってきますね!

 

酒蔵に併設する「浜福鶴吟醸工房」では、実際の酒造りの工程を見学できました。

 

酒造りパネル展示。上の段が現在の酒造り、下の段が昔の酒造り

 

見学通路の階段を上がると、まず酒造りの工程がイラストで紹介されていました。 日本酒は、米と水を発酵させて作る醸造酒。昔の手造りの時代と、現代の機械化された酒造りの違いが示され、伝統と最新技術とを融合させた歴史の流れがわかりやすかったです。

 

イラストで工程を理解した後は、バックヤードゾーンへ。工房はミュージアムのようになっていて、全工程をガラス張りの窓から見ることができました。

 

酒母を育てるために使用される大きなタンク

 

なかでも興味を惹かれたのが、この「酒母室」。日本酒を醸造する際にアルコール発酵を順調に行うための「酒母(Yeast starter)」を造る低温室。室温は5℃ぐらいに保たれています。タンクの中で発酵する小さな泡の音がプクプクと聞こえてきそうです。

 

そしていよいよ試飲コーナーへ。どんな味でしょう……。

 

名物案内人・宮脇米治(みやわきよねじ)さん。2025年2月現在、86歳

 

試飲コーナーで迎えてくれたのは宮脇米治さん。酒造り一筋で今年70年目。来館者へ、酒の魅力を伝える名物案内人として有名です。日本酒への情熱をユニークさを交えながらお話しいただきました。ついついのせられて色々と試飲。すでに最初の酒蔵で、ほんのりいい気分に。

次は、「酒粕」を使ったうどんを近くの酒造のカフェで食べられると聞き、さっそく行ってみることに!

 

 

酒蔵めぐりの合間にピッタリな櫻正宗の「酒粕うどん」

 

櫻宴特製酒粕うどん(715円)。提供時間は10時〜16時

 

酒蔵めぐりのツアーの合間に櫻宴cafeでランチ休憩をとりました。このカフェは櫻正宗記念館を入ってすぐのところにありました。 櫻正宗は1625年創業で、日本酒造りに適した地下水を発見し、灘酒の発展に大きく貢献した酒蔵です。カフェがある櫻正宗記念館には400年の歴史を物語る展示が並び、原酒と会席料理を楽しめる和食レストランや売店が1つの建物に集約されていて入りやすい雰囲気です。

 

櫻宴cafeでお昼の時間帯に提供されている櫻宴特製酒粕うどん。スープに酒粕が使われています。テーブルに運ばれた瞬間、酒粕の香りがふわり。スープは濃厚な味わいで、あっという間に飲み干してしまいました。 メニューを見ると酒粕カレーもあるみたい。ぜひまた食べに来たい!

 

 

2つめの酒蔵。老舗「菊正宗酒造記念館」で、酒造りの原点を学ぶ

 

菊正宗酒造記念館の門の前に飾られている本荷樽。本荷樽は、お祭りや結婚式など、様々なセレモニーを盛り上げる樽酒のこと

 

櫻政宗から住吉川を渡った先、歩いて7分ほどのところに菊正宗酒造記念館はあります。菊正宗は1659年に創業された老舗の酒造メーカーで、360年以上にわたって日本酒造りに取り組んでいます。記念館には、日本料理との相性も抜群な辛口の日本酒の伝統を守り継いできた酒造用具類が展示されていました。

 

酛(もと・酒母ともいう)場は、酛を仕込む作業場

 

館内に展示されているほぼ全ての酒造用具が重要文化財になっているとのこと。 このブースには、酛を仕込む樽が並んでいました。先ほど訪れた浜福鶴吟醸工房で見た「酒母室」のタンクと比べると、昔は大変な手作業だったことが分かります。技術の進化はすごいですね!

そして、いよいよお楽しみの試飲へ。

 

きき酒コーナーでの試飲

 

きき酒コーナーでは、加熱処理を行っていない「生原酒」をはじめ、その季節のお酒などの試飲ができます。まずは、しぼりたての新酒をいただきました。フレッシュな香りでスッキリした味わい。次に、レモン冷酒。こちらは、辛口の日本酒にレモン果汁がブレンドされていて爽やかな味わい。どちらもとても美味しかったです。

 

それでは、次の酒蔵へ。ここから10分ほどの散歩は、酔い覚ましにちょうどよさそうです。

 

 

3つめの酒蔵。「白鶴酒造資料館」で日本酒造りのプロ「蔵人(くらびと)」?!に会う

 

白鶴酒造資料館へは阪神本線「住吉」駅から徒歩5分

 

1743年に酒造業を開始した白鶴酒造の日本酒は、日本全国のコンビニやスーパーなどでもよく見かけ、身近なお酒として多くの人に親しまれています。 1910年代に建てられた白鶴酒造資料館は、1969年まで本店1号蔵として稼働していた酒蔵をそのまま活用したもの。500点以上ある展示品は、酒造りの工程のほか、当時の蔵人(くらびと)の生活も知ることができます。

 

リアルな蔵人人形によって、酒造りの工程が展示

 

酛仕込み(もとしこみ)。酛と蒸米と水をかきまぜる

 

日本酒造りのあらゆる工程を担う蔵人。作業風景が人形で再現されていて、様々な日本酒用具の使い方が紹介されていました。 当時の蔵人たちは、普段は近隣の町や村で農業を営んでいて、10月から翌年の春までの仕込みのシーズンの間だけ酒蔵に住み込みで働いていました。今にも動き出しそうなリアルな人形での再現に、賑やかなかけ声まで聞こえてきそうでした。

 

酒蔵甘酒ソフトクリーム(330円)

 

売店では、白鶴の酒粕を使った酒蔵甘酒ソフトクリームをいただきました。ヨーグルトのような風味が広がり、とても美味しかったです。 日本酒を造る時の絞りの工程で出る液体が日本酒、残った搾りかすが酒粕。余すことなく活用される伝統の知恵ですね。

 

いよいよ今回のツアー最後の酒蔵へ。海外でも話題のサステナブルな酒造りに挑戦している酒蔵です。

 

 

4つめの酒蔵の「神戸酒心館」は、スペイン語で「Bueno(美味しい)!」

 

神戸酒心館は阪神本線「石屋川」駅から徒歩約8 分

 

1751年創業の神戸酒心館。「福寿」という銘柄がそのシンボルです。「福寿」は、ノーベル賞の公式晩餐会で提供されたことでも知られ、世界的に評価の高い日本酒です。この「福寿」、なんと日本酒造りの工程で初めて「カーボン・ゼロ」(二酸化炭素排出量が実質ゼロ)を達成。サステナブルな酒造りに挑戦している酒蔵としても有名で、メディアでも話題になりました。

 

この施設はお酒を造る蔵のほか、ショップ、レストラン、多目的ホールがあり、気軽に入りやすい雰囲気でした。

 

試飲コーナーでは、日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語が話せる店員さんがいました。私はもちろん、スペイン語で「Bueno!(美味しい!)」と感動を伝えました。 ドイツ語、中国語、韓国語、イタリア語、フランス語に対応できるスタッフさんもいるそうです。また、酒造りの説明を記載したリーフレットは16言語にも対応していました。さすが、世界が舞台の酒蔵ですね!

 

神戸酒心館のフォトスポットとして人気の大きな桶のベンチ

 

半日かけて4つの酒蔵をめぐりましたが、それぞれ個性があり、蔵元たちが日本酒の伝統を守りつつ、新たな技術にもチャレンジしていることを知りました。色々な情報の資料を持参して、お酒の違いなどをわかりやすく英語で説明してくれたツアーガイドの高瀬さんに感謝……あっ、酔っ払ってしまい、最後に高瀬さんと記念写真を撮るのを忘れてしまいました……また会いましょう!

 

灘五郷の酒蔵めぐり
https://kobelocaltours.com/en/tours/sake-tasting-at-local-breweries-kobe/
主催/株式会社ビートラベル
お問い合わせ/https://kobelocaltours.com/en/contact/

 

浜福鶴吟醸工房
https://www.hamafukutsuru.co.jp/

住所/神戸市東灘区魚崎南町4丁目4番6号
TEL/078-411-8339
営業時間/ 10:00~17:00(有料きき酒処ラストオーダー16:15)
休館日/ 月曜日(祝日の場合は営業、翌日休館)
入館料/無料

 

櫻正宗記念館 櫻宴cafe
https://www.sakuramasamune.co.jp/sakuraen/sakuraen_index.html
住所/神戸市東灘区魚崎南町4-3-18
TEL/ 078-436-3030
営業時間/ 午前10時~午後7時 (ラストオーダー:午後6時)
休業日/火曜日

 

菊正宗酒造館
https://www.kikumasamune.co.jp/kinenkan/en/index.html
住所/神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
TEL/ 078-854-1029
営業時間/ 9:30〜16:30
休館日/ 年末年始
入館料/無料
10名未満の場合:予約の必要なし
10名以上の場合:予約サイトから
https://www4.revn.jp/kikumasamune_reserve/

 

白鶴酒造資料館
https://www.hakutsuru.co.jp/community/shiryo/
住所/兵庫県神戸市東灘区住吉南町4-5-5
TEL/ 078-822-8907
開館時間 :9:30~16:30(入館は16:00まで)
休館日 :お盆、年末年始
入館料/無料
10名未満の場合:予約の必要なし
10名以上の場合:予約サイトから
https://rk-sys.jp/hakutsurushiryo/?s=SiN

 

神戸酒心館
https://enjoyfukuju.com/en/
住所/神戸市東灘区御影塚町1-8-17
TEL/078-841-1121(受付時間 10:00~17:00)
蔵見学のお申し込み/無料(2日前までに要予約)
https://rk-sys.jp/shushinkan/
東明蔵(ショップ・試飲)/入館無料
営業時間/ 10:00〜18:30
休業日:1月 1日〜3日