歴史が培ったほかにはない文化、兵庫の「オリジン」をめぐる旅

歴史が培ったほかにはない文化、兵庫の「オリジン」をめぐる旅

兵庫は海と山に囲まれていて、街々にそれぞれの魅力がある。港町の神戸、新日本百名山に数えられる六甲山のふもとにある温泉街の有馬など、個性的な街ばかり。個性があるだけでなく現代に息づく独自の文化の起源、「オリジン」といえるものが多いのも特徴だ。港町文化、温泉文化、清酒文化、そして国産み神話の起源。兵庫で育まれた文化、その歴史と物語をめぐる旅には、どんな出会いが待っているだろう。

 

 

港がもたらし、街が醸成した神戸の異国情緒文化

 

神戸ハーバーランドからの眺め

 

1868年に開港し、ヨーロッパ航路の玄関口を担った神戸。以来、ヨーロッパ系の外国人の邸宅や通商の場が設けられた神戸は、独自の西洋的文化を醸成してきた。その拠点である神戸港のウォーターフロントは、今も国際貿易港として多くの船が行き来するとともに、「メリケンパーク」や「神戸ハーバーランド」などの観光スポットが集まるエリアになっている。

 

旧神戸居留地十五番館

 

兵庫県神戸市中央区の旧居留地は、ヨーロッパの近代都市計画技術で建設された。当時の通りを想像させるレンガや石造りの街並みは、現在はファッションストリートになり、景観だけでなくショッピングも楽しいエリアに。

 

グリル一平 新開地本店

 

開港後、西洋料理を学んだ日本人コックたちは、西洋料理を日本人の味覚や食習慣に合わせた「洋食」に発展させた。ビーフシチュー、オムライス、ビフカツ。神戸には、それらが味わえる老舗洋食店が点在している。1952年に創業した「グリル一平」は、4代にわたって守り抜かれている秘伝のデミグラスソースが自慢の洋食店。新開地本店で店長の周 剣明さんが腕をふるう一皿は、“ちょっと贅沢をしたいときのごちそう”として愛されている。

 

 

洋菓子も開港がもたらした食文化だ。とくに1910年代に製造の基盤ができてからは、職人の好奇心と神戸の人たちの食のこだわりのもとに繁栄し、今も人口に対する洋菓子店の多さは神戸が日本一。(写真右上から時計回りに)「ユーハイム」のバウムクーヘン、「神戸凮月堂(こうべふうげつどう)」のゴーフル、「ゴンチャロフ」のコルベイユ、「本髙砂屋(ほんたかさごや)」のエコルセ、「モロゾフ」のブロードランドなど、神戸で発祥し全国に広まった洋菓子店の銘菓は、どれもよろこばれる甘いお土産ばかり。

 

南京町

 

居留地の隣には中華街がある。開港当時、中国が条約非締結国だったために外国人居留地に住むことができなかった中国人は、隣町に独自の「南京町(なんきんまち)」を形成。雑貨や食料品がひしめく通りは、「南京町に行けばなんでもある」と評判を呼んだ。夜、港とは一味ちがう幻想的なあかりに照らされる街は、フォトスポットとしても人気だ。

 

 

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世界でも珍しい「非火山性温泉」の有馬温泉

 

 

神戸市北区にある有馬温泉は、六甲山の北側、紅葉谷(もみじだに)のふもとに広がる温泉街。電車で神戸市街地から30分弱、大阪からも約60分と、アクセスも良好だ。古い日本の書物にも登場し愛媛の道後温泉、和歌山の白浜温泉と並び日本三古湯と呼ばれている。太古の昔から温泉文化が息づいた場所だ。日本には古くから温泉文化があり、疲労回復などさまざまな効能があることから湯治(とうじ)と呼ばれる健康療法が親しまれてきた。現代ではリラクゼーションの場としての役割も人気を誇る。温泉に入るという情緒も多くの人に人気だ。有馬温泉では、鉄分を多く含み茶褐色の濁ったお湯の「金泉」と、無色透明でさらさらとした肌触りの「銀泉」の2つが楽しめるのが特徴だ。

 

 有馬温泉街の景色

 

一般的に温泉は、火山の熱で温められ温泉ができる「火山性温泉」が多いが、有馬温泉や周辺の宝塚温泉、武田尾温泉、灘温泉は「非火山性温泉」で「有馬型温泉」と呼ばれる。近畿地方の地下には2500万年前以降にできた新しいフィリピン海プレートが沈み込んでおり、地下60kmほどで水が吐き出され、これが湧出して温泉となる。世界的に見てもかなり貴重な温泉だ。

 

 

 

 「有馬温泉商店街」の様子

 

有馬温泉は風情あふれる道が多く、老若男女の観光客から人気。なかでも「有馬温泉商店街」には多くの飲食店やお土産店が並び、散策を楽しめる。各旅館で借りることができる浴衣(ゆかた)姿で商店街を散歩すると、温泉街の情緒をより一層感じられるはず。

 

有馬天神社


「有馬温泉商店街」から徒歩2〜3分の場所にあるのが「有馬天神社」。神社の敷地内に温泉の「泉源(せんげん)」があるというのも、有馬温泉ならではだ

 

 「金の湯」の温泉

 

ホテル・旅館など多数の宿泊施設があり、ゆったり温泉を楽しむのもおすすめだが、日帰り入浴もできる。鉄分を含む茶褐色の金泉という温泉に入れるのが「金の湯」。「有馬温泉商店街」に入ってすぐの場所にあり、温泉街のランドマークとなっている。

 

 「銀の湯」の温泉

 

銀泉は炭酸泉、ラジウム泉。こちらも「有馬温泉商店街」から程近い「銀の湯」で楽しむことができる。

 

 

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日本一の酒どころ「灘五郷」で味わう、兵庫独特の清酒文化

 

灘五郷の清酒

「灘五郷」とは、神戸市・西宮市の沿岸部にある酒蔵の多いエリア。西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの地域から成る「日本一の酒どころ」だ。その歴史は14世紀までさかのぼり、清酒文化が街全体に根付いている。

 

酒を入れる酒樽

「灘五郷」は江戸時代に大きく発展した。船で輸送する際に杉の木で作った樽に入れられ、輸送中に清酒に杉の香りが移り程よく熟成された。これが「灘(なだ)の酒」と江戸の人々に愛され知名度を高めたのだ。

 

兵庫発祥の酒造好適米、山田錦(やまだにしき)

 

 また、兵庫県は酒造りに適した酒造好適米、山田錦(やまだにしき)を開発したことでも知られる。とくに北播磨地域で栽培される山田錦は質の高さが日本トップクラス。兵庫県にはこの優秀な米を使用している有名な酒蔵がたくさんある。そのため「Sake tasting at local breweries Kobe」といった利酒ツアーは、観光客からも高い人気を誇っている。

 

 「樽酒マイスターファクトリー」で酒樽を作る様子

 
神戸市東灘区魚崎にある、菊正宗酒造記念館では360年以上続く人気酒蔵、菊正宗の歴史や清酒について学べる施設だ。「樽酒マイスターファクトリー」という工房があり、職人が酒樽を作る様子を見学することができる。

 

菊正宗酒造記念館の「酒造展示室」

 

ほかにも菊正宗酒造記念館には「酒造展示室」があり、古くからの清酒の製法を学べる。長く使われてきた器具には趣と日本の伝統美が感じられ、清酒文化の奥深さを体感できる。菊正宗酒造記念館内では清酒の試飲や購入もできるので、日本酒好きはぜひ足を運びたい。

 

オリジナルの菰樽づくり体験

 

岸本吉二商店の菰樽(こもだる)

 

江戸時代に江戸へお酒を船で運ぶ際に緩衝材として作られた「菰樽」。「岸本吉二商店」では菰樽の歴史解説や工場見学で知識を深め、実際に鏡開きや「ミニ菰樽」の絵付けを体験できる。

 

 

国産み神話が息づく沼島で、奇岩クルーズ

 

 

国生み神話で始まりの地とされる沼島(ぬしま)は、兵庫県最南端に位置する、神秘的な島だ。周囲には奇岩や岩礁が数多くあり、「おのころクルーズ」では漁師船に乗り、海からしか見られない奇岩などを見て回ることができる。

 

ガイドの小野山 豪さん

 

沼島の人口は約300人、その半数以上が漁業関係者とその家族だ。「おのころクルーズ」では、暗礁だらけの島の周りを、海をよく知る地元の漁師さんが自分の漁船でぐるりと1周してくれる。 

 

「穴口(あなぐち)」

 

高さ約80mの屏風岩(びょうぶいわ)に、深さ約50mの洞穴がある。「穴口」と呼び、日本に現存する最古の書物「古事記」神話にある「黄泉への入り口」のモデルとされている。

 

上立神岩(かみたてがみいわ)

 

約10kmの周遊コースの見どころは、ツアーの中ほどで登場する高さ約30mの上立神岩だ。神話によると、この奇岩はイザナギノミコトとされ、対となって下立神岩(イザナミノミコト)がある。その他にも色々いわれがあり、両神が夫婦の契りを結び、国産みをする際に使った“天の御柱”とも。島民からは“たてがみさん”と親しみを込めて呼ばれている。

 

天地創造の神であるイザナギ、イザナミの二神を祀る「おのころ神社」

 

島内には「おのころ神社」をはじめとする神社仏閣にゆかりがあるものが多い。

 

 

 

 

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 2025年大阪・関西万博の開催に向けて、兵庫県では県全体をパビリオンに見立て、地元の人たちが地域の魅力を発信する「ひょうごフィールドパビリオン」を展開している。「おのころクルーズ」はそのプログラムの一つ。島で働き、暮らす人たちとのふれあいも楽しみたい。