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No.f_0018
日本人の心を紐解く兵庫の旅
兵庫県には日本最古の巡礼の路「西国三十三所巡」の霊場がある。礼節を重んじる心やモノを大切にする心といった日本人の土台となる精神は、巡礼の最中にふれあう自然や人を通じて醸成されてきたもの。長い歴史を経て、モノやコトに形を変えながら兵庫県のいたるところに息づく日本人の心を紐解く旅へ。
巡礼の地・書寫山圓教寺で日本人の心の源流に触れる
書寫山圓教寺 摩尼殿
「観音菩薩をまつる33の霊場を巡れば、極楽浄土へ行ける」――。およそ1300年前、閻魔大王の教えによってはじまった「西国三十三所巡礼」。仏教が浸透する前から、日本人は巡礼を通じて勤勉さや心遣いなどを身につけてきたと言われている。
966年、性空上人(しょうくうしょうにん)が兵庫県姫路市の書写山山上に創建した書寫山圓教寺は、「西国三十三所巡礼」第27番の霊場。天皇家や貴族の庇護、また武士や一般庶民の貢献も受け、31haを超える境内には30ほどの堂塔が建っている。
中庭を囲うように建つ「三之堂」は、お経の講義などが行われる大講堂、修行僧たちの寝食の場だった食堂(じきどう)、常行三昧をする常行堂。いずれも国重要文化財に指定されている。自然と歴史的建物がつくる荘厳な空間は、ハリウッド映画『ラストサムライ』などのロケ地にもなった。
書寫山圓教寺 常行堂
圓教寺では、一日修行体験や座禅体験、写経体験、花びら写経ができるほか、修行僧の食事である精進料理も味わえる(4~11月のみ・事前予約制、5名以上から)。帰りには、「西国三十三所巡礼」の宿の役割を担った塩田温泉に立ち寄って体をあたためよう。
姫路・塩田温泉の宿泊の予約
刀に命が吹き込まれる桔梗隼光鍛刀場へ
日本には万物に命が宿るという考えがある。その現場を見学できるのが、姫路から車で1時間弱、相生市矢野町の羅漢の里にある「桔梗隼光鍛刀場」。日本刀や小刀をつくる刀鍛冶(かたなかじ)桔梗隼光さんの鍛冶場だ。
1900年代前半から使われていた道具を譲り受け、作刀している桔梗さん。
折れない、曲がらない、よく切れ、操作性がいい。かつては武器だった日本刀。現代ではおもに美術品としてつくられているが、構造やつくり方は1,000年以上変わらない。「桔梗隼光鍛刀場」では、その伝統の技を小刀づくりで体験することができる。
まずは、熱した鋼を手鎚で叩き、形をつくっていく「火造り」。やすりで形を整えたら焼刃土を塗り、800℃に熱した後に水で急冷する「焼き入れ」へ。最後に研磨をして小刀が出来上がる。
刀に命が吹き込まれるのは「焼き入れ」のとき。この工程が刀身を硬くし、日本刀独特の反りを生み出す。桔梗さんは「焼き入れ」前に必ず神棚に手を合わせて作刀の成功を祈り、刀に「無事に戻ってこいよ」と語りかけながら火の中、水の中へ送り出すという。体験時にも祈ろう。命が宿った世界でひとつだけの小刀は、とっておきの旅の思い出とお土産になる。
侍の時代にタイムトリップできる丹波篠山を歩く
米の産地として知られる丹波篠山は、1600年代より篠山城が作られ城下町として栄えた。ときの将軍である徳川家康(とくがわいえやす)はここ篠山の地を、大坂城に拠点を置く敵軍を警戒するための要衝と捉え、1609年に城造りの名手に篠山城を作らせた。
篠山城大書院
城の中核を成した「大書院」は1944年に火事に遭うも2000年に復元され、篠山のシンボルとして日本国内の城好きだけでなく海外観光客の目も楽しませている。館内には歴史に浸れる展示物も多く、大書院の建てられた1600年代初期の有名な絵師が描いた屏風絵を転用した障壁画も見どころだ。
圧巻はズラリと並ぶ甲冑。武将たちが身に纏った甲冑のレプリカが全15領展示されている。篠山に住む甲冑製作者、時本昭男氏が手作業で造り上げ、寄贈した。美しい鎧兜は堅牢な造りで色鮮やか。この甲冑を身につける体験もできる。
大書院で江戸文化を体感した後にぜひ歩いてほしいのが、武家屋敷の面影が残る御徒士町通り。茅葺屋根の趣ある建物が立ち並び、江戸の雰囲気を今に伝える。
まるで侍の時代にタイムトリップしたかのような、「河原町妻入商家群」も人気のスポット。かつて丹波一の賑わいを見せたという町並みには古民家カフェなどの店が点在し、非日常感が楽しめる。
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武士たちも憧れた赤穂のヒーローの面影が残る城跡
歌川広重(二代)「忠臣蔵夜討之図」赤穂義士会所蔵
1702年、のちにドラマや映画『47RONIN』の題材となった赤穂事件が起きた。この事件は赤穂藩の武士・大石内蔵助(おおいしくらのすけ)ら47人の義士が、藩主・浅野長矩(あさのながのり)の仇を取るため幕府の臣下・吉良上野介(きらこうずけのすけ)に討ち入りをした。兵庫県赤穂市のシンボル「赤穂城跡」は、この赤穂事件に登場する47人の義士の故郷。赤穂温泉から車でおよそ10分のところにあるので、入浴前でも後でも気軽に散策できる。
赤穂城三ノ丸大手門(赤穂市教育委員会提供)
赤穂藩初代藩主が1648年から13年かけて築いた赤穂城は、めずらしい変形輪郭式の海岸平城。現在は本丸、二の丸、三の丸のすべての区画が残り、当時を彷彿させる城跡となっている。大手門や櫓(やぐら)などは、1950年に復元されたもの。
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真剣な稽古から生まれる「礼」とは
伝統武道に興味があれば、「薙刀(なぎなた)」に挑戦してみては。日本の中世(794〜1185年頃)に発祥したと伝わる「薙刀」は、戦いや護身の術として広まり、前述の赤穂義士も会得していたという。第二次世界大戦後の武術禁止令を経て、おもに女性の武術として広まった。薙刀の長さは210〜225cm。振り上げると重力によって振り下ろせる長い柄は腕力が弱くても扱えるのだ。
兵庫県伊丹市にある「修武館」は、1786年に町の治安維持のために薙刀を含む武術の修練をする場として開設された道場。以来、伊丹は薙刀の聖地となった。
現在、競技としての「薙刀」には、防具を身につけ定められた部位を互いに打突して勝負を競う「試合」と、防具をつけず指定された形を対人で行い技を競う「演技」の2つがある。
「薙刀の稽古では、相手と心をひとつにして呼吸を合わせることが必要。そうすると自然と相手の年齢や体力を読み、思いやりの心、つまり礼の心が生まれてきます」と話すのは、古流の天道流第17代宗家・木村恭子(やすこ)師範。「左右対照の動きをするので、体のバランスもよくなりますよ。はだしで木の床を歩くのも気持ちがいいでしょう」。長い柄の先の相手と尊重しあい、心身が整う心地よさを体感できる薙刀。稽古体験のあとは、宝塚温泉や武田尾温泉まで足を伸ばして、充実の一日を。
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書寫山圓教寺
圓教寺へのアクセスは、書写山ロープウェイの利用が便利
https://www.mt-shosha.info/en.html
桔梗隼光鍛刀場(小刀づくり体験)
篠山城大書院
https://withsasayama.jp/osyoin/
赤穂城跡
http://www.ako-hyg.ed.jp/bunkazai/akojo/
修武館
Date : 2024.10.17