播磨の3城下町をめぐる

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播磨の3城下町をめぐる

城の数が日本一多い兵庫

 

映画やドラマなどで、鎧を身に着け、刀を手にした侍たちが戦うシーンをご覧になったことがあるだろうか? 野望や忠誠心をもった侍たちが、激しく戦いを繰り広げていたのは17世紀初頭までのこと。当時の日本には各地に領主たちが乱立、領土や勢力争いのための戦闘を繰り広げていた。その戦いの、最後の防衛拠点となるのが「城」である。

 

現在、建造物として残されていない城跡も含めると、日本には城が数万か所あるとも言われている。なかでも兵庫は特に城の数が多い。県内には1000を超す城跡があり、国指定史跡は22と日本一の数だ。

 

これほど兵庫に城が多いのは、古くから交通の要所であったことが理由の一つ。文化や経済の中心だった大阪、京都などと、日本の西の地域を結ぶ主要な交通路が兵庫には通っていた。そのため大きな争いの舞台になることも多く、戦略上、兵庫県には多くの城が築かれていった。

 

戦闘のためであった城は、時代の流れとともに、その領地を治め、城主の権力や財力を示す役割も持つ建造物へと発展していく。城の中の最も高い建造物である天守が、美しさとともに威厳をもって見えるのはそのためだろう。桜をはじめとする四季折々の自然にとけこんだ日本らしい美しさをぜひその目で確かめてほしい。

 

 

桜が咲く春の姫路城

 

兵庫県のなかでも、特に見るべき城が集中しているのが播磨エリアだ。

 

日本で初めてユネスコ世界文化遺産に登録された姫路城を筆頭に、国指定史跡・赤穂城や龍野城など多くの城が存在する。

 

一口に城といっても、山の中に建てられているか、海の近くに建てられているか、平地に建てられているかによっても異なるし、築城された時代の情勢や、城主の生き方・考え方なども、城の設計に影響している。「自分が城主だったら敵の侵入をどう防ぐ?」「もし自分なら、この城にどうやって攻め入るか?」などと考えながら、防衛拠点としての城を比べて見て回るのも楽しい。

 

かつて侍が歩いていた町を散策

 

城の見学を終えたら、かつて侍たちが闊歩していた城下町を散策してみよう。

 

当時、城が築かれると、城のまわりには侍を住まわせる家ができ、さらに商人や職人などを集めた地域ができた。それが城下町。城主は街道をつくり人と物の流れを呼び込み、商人に活発な経済活動をさせた。こうした城下町は、現代の日本の主要都市の元になっていることが多い。

 

たとえば姫路城の城下町であった姫路市は、現在も播磨エリアの中心地。商業地域としても栄え、にぎやかな商店街ではショッピングなどが楽しめる。また、龍野城の城下町であるたつの市は、武家屋敷や白壁の土蔵など、城下町の面影が今も色濃く残るところ。現在は「播磨の小京都」とも呼ばれている。

 

このように、播磨エリアは、かつての侍や町人たちがいきいきと暮らしていた時代の面影を感じ取れるところが多いのだ。

 

龍野の城下町

 

姫路城と武家屋敷

 

兵庫の城めぐりを始めるなら、まずは姫路城だろう。

 

JRの姫路駅を降りたら、北口にある眺望デッキ、通称キャッスルビューへ。その名の通り、駅前からまっすぐに延びる大手前通りのむこうに姫路城を眺められるので、ぜひ立ち寄りたい。そして、にぎやかなみゆき通り商店街を通り抜けて20分ほど歩くと、姫路城にたどりつく。

 

青空に映える白壁の美しさはまばゆいほどで、実際に間近で目にすると「日本一の名城」とたたえられるのも納得できるはず。シラサギが優雅に羽を広げている姿に見えることから、別名、「シラサギ城」「ハクロ城」とも呼ばれる。(「ハクロ」は、シラサギという漢字の別の読み方)1993年、世界的にも他に類のない優れた木造建築物として、日本初のユネスコ世界文化遺産に指定されている。

 

姫路城が本格的に築かれたのは1346年、以降、歴代の城主によって拡張されながら、現在の姿になったのは1618年のこと。その後は一度も戦火にあうことなく、第二次世界大戦の空襲でも大きな被害を受けないまま、400年以上が経過した今もその姿をみることができる。そのため姫路城は「不戦・不焼の城」とも呼ばれ、平和のシンボルとして見る人も多い。

 

姫路城は夜も必見。ライトアップされた姫路城は妖艶な美しさ

 

キャッスルビューからの眺め

 

姫路城の城下町は残念ながら太平洋戦争の空襲によってその多くが焼失してしまった。しかし、姫路市は文化財の保全と活用を目的に、かつて侍が住んでいたであろう武家屋敷群の遺構を活かし「姫路城西御屋敷跡庭園 好古園」として、姫路城のすぐ隣に建造した。約33,000㎡の敷地に9つの庭園があり、庭からは姫路城の天守を見ることもできる。城内とはまた違った和の美しさ・落ち着きを感じられるはずだ。

 

レストランも併設されているため、姫路城の見学を終えたら、美しい庭園を眺めながら姫路名物の穴子を使った料理を堪能しよう。

 

秋はもみじが美しい庭園

 

名物の穴子も食べられる、冷そば・穴子丼セット

 

小京都・龍野では醤油づくりも

 

翌日は、かつての城下町の雰囲気をもっと感じるために、龍野城へ。姫路駅からは電車で20分ほどで、最寄り駅である本竜野駅に到着する。車でも姫路市内から30分ほどの近さだ。

 

「播磨の小京都」として知られるここは、龍野城以外にも歴史的な建物が数多く残されている。古きよき日本の街並みを眺めていると、タイムスリップしたような気分を味わえるだろう。

 

約500年前に築かれた龍野城

 

通りの向こうから今にも侍が現れそうな街並み

 

龍野は醤油の産地としても知られている。特に有名なのが、色味の薄い「淡口(うすくち)醤油」。一般的に使われることの多い「濃口(こいくち)醤油」は色味が濃く、濃厚な味、強い香りを持つ。一方、「淡口醤油」は穏やかな香りをもち、色味が薄く食材の色味を損なわない。食材のおいしさと色を生かすため、だしを使った和食の調味料としてはぴったりだといえる。この「淡口醤油」が誕生したのが、龍野だ。

 

実は龍野はかつては酒づくりの産地だった。ところが1660年頃、酒になる前の甘酒を、醤油もろみ(醤油の醸造工程において複数の原料が発酵してできる柔らかい固形物)に加えたところ淡口醤油が誕生したという。今も「淡口醤油」の生産量では日本一を誇っている。

 

市内にある「発酵LabCoo」ではマイ醤油づくりが楽しめる。店名にある「発酵」とは微生物の働きで原料を分解することで、発酵によって食材の味や栄養価が高くなることが知られている。有名なのはヨーグルトやチーズだが、実は、醤油や味噌、酒など和食で使われる多くの調味料は発酵食品。醤油づくりを体験しながら、日本の発酵文化にふれてみてほしい。

 

発酵LabCooで醤油づくり体験

 

塩の町・赤穂で、塩づくり体験&温泉

 

龍野で醤油づくりを体験したら、翌日は国指定史跡・赤穂城へ足を運んでみてはどうだろう。

 

実は、龍野の醤油づくりが盛んになった背景には、赤穂も関係している。醤油づくりには良質な塩が欠かせないが、それが赤穂城のある「赤穂の塩」なのだ。赤穂は日本で最初に海水から塩を大量に作る技術を確立したところで、この塩の生産・販売によって、豊かな財力を得て、赤穂城の城下町を整備したとも言われている。塩づくりの方法は時代とともに変化してきたが、赤穂の塩の生産量は、現在も国内の約2割を占めている。

 

たつの市からは車で30分ほど、公共交通機関ならバスと電車を乗り継いで1時間ほど。車窓を眺めながらミニトリップを楽しんでほしい。

 

13年の歳月をかけて築かれた赤穂城

 

赤穂市には塩づくり体験ができるところもあり、それが海沿いにある「AMAMI TERRACE」だ。伊和都比売(いわつひめ)神社の境内にあるカフェ&ワークショップで、海を眺めながら食べられるランチや塩を使ったスイーツのほか、塩づくり体験も楽しめる。

 

伊和都比売神社は海に面した珍しい神社

 

海水の塩分濃度を高めた「かん水」を加熱して塩づくり体験

 

播磨の旅のお泊まりでおすすめしたいのが赤穂温泉。瀬戸内海に面した温泉は、波の音を聞きながら、夕日を眺めながら、ゆったりと温泉を楽しむことができる。泉質は塩分やミネラル成分が豊富で保温効果も高く、別名「よみがえりの湯」とも言われている。

 

きっと赤穂温泉の湯が、この旅の疲れをいやしてくれるはずだ。

 

海と一体化したようなお風呂が楽しめる、赤穂温泉の銀波荘

 

●姫路城
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/0651

 

●ひょうごフィールドパビリオン:e-bike サイクリングツアー 旧街道をゆく姫路城下町めぐり
https://expo2025-hyogo-fieldpavilion.jp/program/40

 

●姫路城西御屋敷跡庭園 好古園
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/0625

 

●龍野城
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/330

 

●ひょうごフィールドパビリオン:龍野に息づく、醸造体験および蔵見学ツアー
https://expo2025-hyogo-fieldpavilion.jp/program/26

 

●赤穂城
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/552

 

●ひょうごフィールドパビリオン:塩のまち赤穂で、塩作りワークショップ(ランチ付き)
https://expo2025-hyogo-fieldpavilion.jp/program/72

 

●日本遺産:「日本第一」の塩を産したまち 播州赤穂
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story077/

 

●赤穂温泉
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/543