◇「兵庫テロワールlab.」テロワール研究員レポート
食や文化を味わい楽しみ、それらが生まれたルーツや背景を探り、受け継いできた人の想いや技術に触れる。大地の恵みを堪能する“兵庫テロワール旅”の情報を、現地で体感した「テロワール研究員」の視点でお届けします。
豊岡市の東端、赤花地区で400年来守り継がれてきた在来種のそば「赤花そば」
そば粉100%の「赤花十割そば」が食べられる『赤花そばの郷』でそば打ちを体験
豊岡市の東端、但東町赤花地区に、今や希少な“在来種”のそばがあります。
400年以上もの歴史を持つ「赤花そば」です。
とても粘りが強い種なので、その特徴を活かすため、地元ではつなぎを一切使わず、そば粉100%の十割そばで頂きます。
栽培から製粉、製麺まですべてを自分たちで手掛け、地元の人たちが大切に守り継いでいる「赤花そば」をご紹介します。
春のチューリップや夏のひまわり、秋には真っ赤なドウダンツツジと、四季によって表情を豊かに変える豊岡市但東町。
この但東町の東、チューリップ祭りで知られる「たんとう花公園」の近くに『赤花そばの郷』はあります。
貴重な地域の種を残そうと、地元の人たちが生産組合を設立してオープンしたのが『赤花そばの郷』。広いそば畑の隣に、そば店とそば道場、裏手に製粉工場があります。
代表の本田忠寛さんに「赤花そば」について教えてもらいました。
《本田さん談》『すぐそばにある法華寺に、400年以上前にそばが振舞われたという記述が残っているので、少なくとも400年以上前から地域で栽培されてきた“在来種のそば”なんです』。
“在来種”とは、その土地で昔から栽培されていて、品種改良されていない品種ということ。
《本田さん談》『かつては全国各地にその地域で育てられた在来種のそばがあったんですが、栽培しやすくしたり収穫量を増やすために品種改良がどんどん進んで、在来種はどんどん失くなってしまったんです。
そこで、貴重な赤花の種を守り継ごうと、私の父も含め地元民が組合を作って「赤花そばの郷」を1991年にオープンしました』。
無農薬栽培を徹底し、栽培から製麺まで全てを自分たちで手掛ける
一般的なそばの花は白ですが、「赤花そば」は赤い花をつけるのが名前の由来。
《本田さん談》『白い花の中で、全体の1%程度に赤い花が咲きます。品種改良をしていない証拠です。なぜ赤く色づくのか、理由はわからないんですが、寒暖差が大きい年は赤い花が増えるんです』。
信州周辺の「高峰ルビー」などの品種改良された赤い花のそばとは全く違うもの。
「赤花そば」は、但東町内のみで栽培されています。
《本田さん談》『但東町内では、他の品種のそばは全く栽培していません。
ミツバチの行動範囲とされる3km域内で別の品種のそばを栽培すると、花粉が運ばれて自然交配してしまうからです。在来種を守り継ぐためには、地域全体で取り組まないといけないんです』。
現在、集落の約20haで、無農薬に徹底的にこだわって栽培。
さらに、そばの風味を損なわないように、敷地内の工場で栽培から製麺までのすべての工程を『赤花そばの郷』で手掛けているそう。
《本田さん談》『赤花そばの持ち味を最大限に引き出せるように、すべての工程にこだわりがあるんです。
例えば、収穫したそばの実は、日差しが入るガラス張りの空間で、3日間ほどかけて少しずつ水分を抜きます。手間がかかりますが、機械で一気に乾燥させる方法とでは、旨味が格段に違います。
製粉の石臼も、ゆっくりと時間をかけて粉が熱を持たないように製粉します』。
『赤花そばの郷』のそば道場で十割そばのそば打ちを体験
こうして作られる「赤花そば」の最大の特徴は、粘り気の強さと濃い風味。
今回、『赤花そばの郷』にある「そば道場」で、そば打ち体験をさせて頂いたのですが、その特徴を身をもって感じることができました。
《本田さん談》『そば店もそば道場も、うちのそばはすべてそば粉100%の十割そば。赤花そばは粘り気がすごく強いから、つなぎを使わない十割そばが打ちやすいんです』。
つなぎを一切入れていない100%そば粉ですが、水を加えて混ぜ始めると、あっという間に粘りが出てきます。
《本田さん談》『赤花そばは、そば粉を水で練り、そこにそば粉に熱湯を加えて練った“そばがき”を混ぜ込んでいきます。こういう打ち方をするそばは他にはないと思います』。
練ったり捏ねたりしていると、香ばしい香りが立ち上ってきます。
練りあがった塊は綿棒で平らに。方向を変えながら何度も繰り返して、全体の厚みを均一にしていきます。
最後は、私が一番難しかった、切る工程。
美味しいそばにするには、湯がく際に火の通りが均一になるように、同じ幅に切らないといけないのですが、至難の業です。お手本の本田さんの麺と比べると、違いは歴然。。。
でも、「十割そばは難しいのに、初めてでこれだけできれば十分」と、教え上手な本田さん。
簡単そうに見えて実は非常に奥が深いそば打ち。職人の技術の高さを間近で体感することができました。
初めてのそば打ちは非常に面白く、少し上手にできたと思うところを褒めていただけるので、一人で打てるようになるまで、そば道場に通いたくなりました(^^)
そば打ち体験は完全予約制で、1鉢(そば5人前)で6,500円(税込)。
体験後は、隣接のそば店で湯がいてもらって、自分で打ったそばを味わうことができます。
食べずにそのまま持ち帰ることもできますよ。
太さバラバラな仕上がりですが、味は絶品!
コシのあるそばは、独特の香ばしい香りがして、噛むほどに甘みが広がります。
今まで食べたそばとは全然違う、個性的で強い風味。箸が止まりません!
《本田さん談》『そばの持つポテンシャルが本当に高いので、赤花そばは他のものは何も加えない十割そばで食べてもらいたいんです。
ツルツルというのど越しを楽しむというより、じっくり噛んで、香ばしい香りと際立つ甘みを味わって欲しい』。
お店は土日祝の昼のみ営業
名物はシンプルを極めて「水そば」
「赤花そばの郷」の名物は、つゆも塩も何もつけず食べる「水そば」。
「水そば」のそば粉は、一年で最も寒い時期に約3日間、そばの実を流水に浸けてアクと渋みを抜き、発芽寸前になった実を再び天日乾燥し、石臼で挽いて作られます。
シンプルを極めた「水そば」は、在来種の風味を最大限に引き出すために、手間暇をたっぷりかけた逸品。透明感のある豊かな風味の中に、土や太陽や水といった但東の自然の力が感じられます。
これがきっと在来種のパワーなんでしょうね。
お店は土日祝の昼のみ営業。
メニューは2種類のみで、「赤花そば」1,100円(税込)と、通常の赤花そばと水そばがセットになった「水そばセット」1,500円(税込)。
どちらも数に限りがあるので予約がおすすめです。
10月~11月は収穫の季節で、11月初旬には新そばも店頭に登場するそうです。
山々に囲まれた但東の集落で、大切に守り継がれている希少な在来種の赤花そば。
わざわざ足をはこんででも食べに行く価値がある美味しさです。
DATA:
◇ 赤花そばの郷
兵庫県豊岡市但東町赤花159-1
TEL:0796-56-0081
土日祝の10:00~15:00のみ営業
※予約があれば、営業日・時間外でも対応可能
◎そば打ち体験
1鉢(そば5人前、指導料込)6,500円(税込)
※完全予約制、2鉢以上で予約可
https://www.akabana-soba.net/
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掲載日:令和5年10月7日