◇現役ANA CAがおすすめする、兵庫の観光スポット特集シリーズ◇
ANAより兵庫県庁に出向中の現役CAが、兵庫五国の魅力を探りながら、おすすめ観光情報をご紹介します。食と文化のルーツを知る、食べる、体験する“兵庫テロワール旅”に出かけてみませんか?
第3弾は、『100%植物素材、地球にも人にも優しい伝統工芸品「和ろうそく」の魅力』をご紹介!
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すべて手作業、職人の技が光る伝統工芸品『和ろうそく』
阪神久寿川駅から徒歩1分のところにある「松本商店」。兵庫県内で唯一“伝統工芸品「和ろうそく」”を作っている工房です。
和ろうそくは、江戸時代には武家、裕福な商人などが照明として使用する高級品として扱われていました。姫路藩の藩業として製造されていた和ろうそくですが、明治10年頃に姫路城下の製造業者から分家し、初代松本亀吉氏が大阪の福島で製造を始め、戦後西宮で開業したことが松本商店の始まりです。
ろうそくには大きく分けて、「和ろうそく」と「洋ろうそく」があるのをご存じですか?
日常生活で身近にあり、よく目にするのは洋ろうそくが多いのではないでしょうか。
洋ろうそくは糸の芯と、石油系のパラフィンから作られ、機械で生産されます。
一方、和ろうそくは、ハゼの実からとれる木蝋(もくろう)などの植物性の蝋から作られ、芯は、い草から取れる灯芯です。つまり、すべて植物素材から作られており、1本1本が丁寧に手作業で作られるので、地球にも人にも優しい安心・安全なろうそくです。
今回、松本商店を訪れ、四代目松本恭和氏に話を伺い、和ろうそくの製造過程を見学させて頂きました。
和ろうそくには、「すすが取れやすく、はたくとさっと取れる為、お仏壇や部屋を汚しにくい」「炎のゆらぎに癒やし効果がある」「風に強く消えにくい為、屋外での使用に適している」など魅力がいっぱいです。
松本商店では、蝋の種類によって2種類の製造方法で和ろうそくが作られています。
木蝋は溶ける温度が低い為、1本1本を手作業で行う「清浄生掛け」、米ぬか蝋は溶ける温度が高い為、「型流し」の製法で作られています。
なんと、1ヶ月に1トン以上もの蝋を使用し、和ろうそくを製造されているそう。
ここからは、実際に見学した様子をレポートしながら製造方法についてお伝えしていきます。
ろうそくが出来るまで
竹に芯(和紙の上にい草の灯芯を巻きつけたもの)を1本1本指していく「芯さし」という作業を行います。この芯の良し悪しが和ろうそくの燃焼に大きな影響を与えます。店舗の一角に原料の展示があります。灯芯は思っている以上にしっかりとした太さで、この立派な太い芯のおかげで火が消えにくいそう。
次に、「芯締め」。灯芯に蝋をなじませ硬化させ、生掛け(きがけ)をしやすくする作業を行います。40℃~50℃位の蝋の温度が最適で、これ以上熱すぎると竹串から蝋が抜けなくなることも。工房には作業前の大きな鍋に入った溶かした蝋が。
次は「下掛け」。九州地方で採れたハゼの実から絞った木蝋を右手と左手のバランス感覚で「ぬっては乾かし」の作業を繰り返し、目的の太さまで仕上げていく作業を「生掛け」と言います。夏は外気温が高く蝋が冷めにくい為、塗りにくいそう。何十回もこの作業を繰り返し、ろうそくを太くしていきます。
下掛けで目的の太さになったところで、次は「上掛け」。愛媛県で採れたハゼの実から絞った木蝋を表面に塗ってコーティングをします。松山ハゼの蝋の色は薄い緑色をしています。この蝋の融点は52℃~55℃位で内側の蝋に比べて高い為、蝋が内側から溶け外側に流れ出さないようにコーティングする意味合いもあります。
仕上げに「頭切り」。熱した包丁で頭の部分の芯出しをします。この時に力を入れすぎると芯部分まで切り落としてしまうので、最も神経の使う作業だそうです。
頭の部分が完成したら、次は最終工程の「尻切り」。竹串からろうそくを抜き、尻切りをし、寸法を揃える作業です。
以上、6つの作業をひとつひとつ手作業で丁寧に行う製造方法が「清浄生掛け」です。
「型流し」という製造方法も、実際の作業の様子を見学させて頂きました。
型流しに使う型は桜の木を濡らしたものを使用します。型が濡れていないとろうそくが抜けなくなるそう。写真の様に下向きの形で固めていると職人さんが教えて下さいました。
木の型だけでなく、金属製の型もあります。こちらは型から抜いた後の様子。
型流しの製造方法もすべて手作業です。和ろうそく作りは全てが職人の手作業で、どちらの製造方法も職人技の細やかさや丁寧さを感じました。
こちらは絵付けの様子。アクリル絵の具で、細く丸みを帯びたろうそくに、美しい花の絵が描かれていきます。
最近ではお客様からのリクエストにより、故人の好きだったスポーツや愛犬などを描きお仏壇に供えられる方も増えているそう。
美しい絵が魅力的な和ろうそくですが、絵付けを始めたのは約30~40年前に四代目松本恭和氏が店を継いだ時だそうです。
元々、絵付けの文化は関西にはなく、東北など寒い地域で冬にお仏壇に花の代わりに供えるものとして和ろうそくに花を絵付けされていました。
暑い関西の夏でも、花が枯れずにずっとお仏壇にお花があるようにという意味を込めて絵付けを始められたそうです。
今では季節の花が描かれた和ろうそくが人気の商品に。
和ろうそく手づくり体験
神戸/北野エリアにある「北野工房のまち 和ろうそくkobe」では、和ろうそくの手づくり体験や絵付け体験などが出来ます。
実際に「和ろうそく手づくり+絵付け体験」として上掛けと絵付けを体験してきました。
上掛けは一見簡単そうに見えますが、左右の手で違う動きをするため、思っている以上に難しい!
左手で蝋を頭、お尻と順に手を滑らせながら塗っていくのが至難の業で、出来上がったろうそくの表面はガタガタでした、、笑
塗った蝋はすぐに乾くため、自分がコーティングして仕上げたろうそくに絵付けをしていきます。
今回はこちらの神戸の海と山、空の描かれたお手本を元に絵付けしました。もちろん、オリジナルのデザインで絵付けが出来ますので、とっておきの1本に仕上げてみて下さい。
ろうそくの表面は丸い為、そこに絵を描いていくのがまた難しい!
絵付けしていくうちに、細部にこだわり始め、気づけば1時間以上経っていたほど夢中で作業をしていました。
なかなか見本通りとはいきませんが、なんとか完成。
世界で1本しかないオリジナルの和ろうそくの出来上がりです。
和ろうそくkobeでは、「ポートタワー和ろうそく」の絵付けも出来ます。旅行の記念にオリジナルカラーのポートタワーを作ってみては?
絶滅の危機にある木蝋
最後に、和ろうそくを作る上で重要な原料、植物のハゼの木の実の油「木蝋」についてのお話。
木蝋は独特の粘りを持ち、食品衛生法に適した安全性をもっており、私たちの生活の中にもクレヨンや口紅、軟膏の原料として使用されるなど、多く取り入れられています。
しかし、近年その木蝋が絶滅の危機にあるそうです。
元々、木蝋を使用する割合は和ろうそくが20~30%で残り約70%は化粧品や医薬品などに使用されていましたが、最近では、価格の高い木蝋よりも価格の安い石油系のパラフィンを使用する化粧品などが増え、木蝋の消費が減ったことにより、今では全国に2軒しか木蝋屋さんは無いそうです。
消費者の私たちが価値のある安全性の高い商品を選択し、木蝋を使った商品の消費が増えることで安定的に木蝋が生産され、伝統工芸品の原料確保にも繋がるのではないでしょうか。
伝統工芸品を後世に引き継ぐ為に、原料の課題についても考えさせられる貴重な機会となりました。
楽しいだけでなく、伝統を受け継いできた人の想いに触れ、持続可能な文化についても考えてみる、そんな兵庫テロワール旅に出かけてみませんか?
◇(有)松本商店
住所:〒663-8215 西宮市今津水波町11-3
電話番号:0798-36-6021
営業時間:09:30~18:00
定休日:日曜・祝日
アクセス:阪神久寿川駅から徒歩1分
◇北野工房のまち 和ろうそくkobe
住所:〒650-0004 神戸市中央区中山手通3-17-1 北野工房のまち201
電話番号:078-221-1148
営業時間:10:00〜18:00(年末年始は休業)
アクセス:各線三宮・元町駅より徒歩約15分
シティー・ループ 北野工房のまち(トアロード)バス停すぐ