時を超え、脈々と伝わる職人技を現地現物で感じ、職人の心意気を後世に伝える。
『日本で唯一の大工道具館です。』と紹介するだけではあまりにも勿体ない。
竹中大工道具館は、日本の伝統と革新の建築美も随所で感じることができる、”底深い” 施設です!
神戸のゲートウェイ 新幹線の新神戸駅から3分ほど。
裏に「布引の滝」としておなじみの六甲山系の山がひかえ、清涼な空気が感じられる場所に竹中大工道具館はあります。
入口の門をくぐると、自然に囲まれた静寂な空間が現れ、平屋建ての建物が。
まるで、大きな日本家屋の屋敷に来たようなアプローチを進み、木の自動ドアを進むと、館内へ。
竹中大工道具館 西村館長にご案内いただきました!
竹中大工道具館の名前の由来は?
竹中というと、神戸にゆかりの深い竹中工務店。
江戸時代に名古屋で宮大工をしていた竹中家ですが、1868年の神戸港開港を機に、建築ラッシュが始まった神戸での仕事の依頼が入り、次男を神戸に行かせることに。
そして1909年には、名古屋から神戸に本店を移し、個人営業のかたちから会社組織に転換、本宅と本店を新築すべく購入したのが、今の竹中大工道具館の場所です。
設立時は竹中工務店の企業博物館としてスタートしましたが、現在は公益財団法人として、竹中工務店とは独立した組織・運営になっています。
館長ご自身も、竹中工務店の設計部で活躍されたのち、現在は竹中大工道具館の館長となられた一級建築士。
この竹中大工道具館の設計時には、設計部門全体の支援指導を担当されていたそう!
この国内唯一の大工道具館ができた経緯は?
昭和30年代以降、高度経済成長を迎えた日本では、建築ラッシュで木造建築が減少、公共建築は耐震耐火が目指され、住宅も工業化・商品化が始まりプレハブに変わりました。電動工具の普及も相まって、それまでの大工道具は消滅の危機に瀕していました。それを危惧した竹中工務店の当時の社長が、「これから姿を消していく大工道具と匠の技と心を人々に伝えていきたい」と、博物館を開くことを考えました。
しかし大阪万博の後のオイルショックの影響もあり、ようやく道具館の夢が実現に向かってスタートしたのが1980年です。
個人や企業が博物館を開くときは、たいてい、すでに収集してある作品を展示しますが、ここは、開館を決めてから、日本中、そして中国やヨーロッパの大工道具の資料を集め始めました。そして足掛け5年かけて準備し、1984年に開館したのです。
さまざまな人々の協力の下に、日本の貴重な道具や資料が寄贈され、最初の大工道具館は、現在の兵庫県庁の北側、中山手で開館されました。しかし、当時は小さな展示室にずらりと並べられた道具や資料をじっくりと見てまわるかたちで、専門の研究者やマニアにはとても興味深い内容でしたが、一般の来館者が気軽に訪れる雰囲気ではなかったそう。そこで、現在の場所に大工道具館を移転新築する際には、より一般の方にたくさん来て頂き楽しんで頂けるように、自然や建物自体も鑑賞の対象になるような設計になりました。
竹中工務店の設計部が、日本の伝統建築技術と最新技術を融合し、2014年に、現在の建築に建て替えられました。
さぁ、いよいよ館内へ!
お荷物はぜひ入口のロッカーへ!鍵まで木の仕様になっていて、素敵。
木目が魅力的なテーブルは、アフリカから取り寄せられたモアビという樹の一枚板で、
関西在住の木工作家たちによって創られた個性豊かな椅子も。
天井は、大工の職人芸が一目で感じられるように設計された、舟底型の杉格子天井。
部材の一本一本の長さ、頂点で組み合う一つ一つの仕口の角度を変え、釘を使用しない木組の技は、美しいの一言。
常設展示は、7つのコーナーに分かれています。
地下2階までの吹き抜けの空間の実物大の模型、実際に香りや手触り、重さなど五感に響く展示を通じて大工道具の歴史や奥深さを知ることができます。
展示内容はもちろん、この館の建物の設計自体も美しくて、至る所から日本の建築美を知ることができます。
1階から地下の展示室へ降りる階段は、踏板が宙に浮いて裏に支えがありませんし、横の壁の土壁仕上げは地下2階分吹き抜けで、真っ直ぐ水平の線が削り出されています。
すぐに固まってしまう土をこんなにも真っ直ぐに、そして内側と外側の壁一面に施すのは凄いことだそうで、熟練の職人達が、一斉に手作業で真っ直ぐに削り出して仕上げていったという事実を知ると、見る目が違ってきますね。
隣の中庭には、淡路島の達磨(だるま)窯で焼かれた瓦が一面に。
均一な工業製品ではなく、伝統的な製法で焼かれていることで、色合い、風合いの微妙な差が、独特の表情を創り出しています。雨の日に雨音を楽しみに来てみたくなりました。
展示室は地下2階まで吹き抜けになっていて、奈良の唐招提寺金堂組物の実物大模型が。
普段お寺へ観光に行っても、じっくり見ることも、ましてこの高さでみることが無いですよね。これも木組で支えあっているというから驚きです!
じっくり鑑賞した後は、地下2階の模型の真下に用意された椅子に座って見上げ、壮大なスケール感を味わうのがおすすめの鑑賞方法。
竹中大工道具館は、大工道具を通じて、匠の技術や魂を、一般の方々に楽しんで知ってもらうための工夫が建物の設計からこだわってデザインされています。
大工道具だけではなく、日本の建築を支えた棟梁や、道具を手がけた名工のストーリーを、それにまつわる貴重な資料、映像、作品と共に知ることができます。
釘を使わない木組の技術の凄さは知恵の輪みたい!
木の種類によって違う香りも五感で体験できます!
こちらの、組子細工は木の一片一片を緻密に計算し、組み合わせてこの濃淡、細かな模様を創り出します!
「数奇屋大工の技」の紹介エリア
丸太と丸太の接合面にまったく隙間がありません!
数寄屋造りの茶室は、客人が気負わず、そして心の距離を近づけられるように質素でシンプルな造りが特徴。
しかし実際には、土壁を分厚い壁にせず、かつ土をしっかりと載せるために、緻密に計算された竹の下地があったり、室内の圧迫感や堅苦しさを減らすために角を曲面にしたりと、表面では見えない美しい技術が至る所に。
それを全て見えるようにした、スケルトン茶室は竹中大工道具館ならでは!
また敷地内には、京都の数寄屋の名工が手がけた実際の茶室があり、年に2回だけ一般公開されます。
ワークショップも開催されていて、リュールシロホン(木琴)づくりなど、大人も子どもも楽しめます。スケジュールなどの詳細は公式サイトでご確認ください。
お土産コーナーには、ここならではの大工道具キーホルダーが!
鉋(かんな)が人気の様子。
また、休憩室棟もあり、桜の木が植えられている庭園を目の前に、四季折々の自然を味わえる空間となっています。
ここでも建築の興味深いストーリーがありますが、それは実際に訪れてみて!
竹中大工道具館、建築美と日本の美しさを存分に感じられる、自然豊かな美術館といっても過言でない美しい場所です。ぜひ一度足をお運び下さい!
◆D A T A
竹中大工道具館
住所:〒651-0056 兵庫県神戸市中央区熊内町7丁目5−1
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
公式HP: 竹中大工道具館 (dougukan.jp)