「兵庫テロワールlab.」テロワール研究員レポート
食や文化を味わい楽しみ、それらが生まれたルーツや背景を探り、受け継いできた人の想いや技術に触れる。大地の恵みを堪能する“兵庫テロワール旅”の情報を、現地で体感した「テロワール研究員」の視点でお届けます。
こだわりの灘の酒造りを伝承。「菊正宗」の日本酒について徹底調査!
“灘の酒”として全国的にも有名な酒造りの名産地・灘五郷(なだごごう)。今回紹介するのは、東灘区にある「菊正宗酒造記念館」「樽酒マイスターファクトリー」です。日本を代表する名酒・灘の酒がどのようにして造られてきたのかを知ることができる、貴重な資料展示や職人さんの作業見学の様子をレポートします。
■日本酒造りの老舗「菊正宗」の魅力に迫る!
貴重な文化財とともに酒造りについて知る「菊正宗酒造記念館」へ
六甲ライナー南魚崎駅から住吉川沿いを歩くこと2分。1659年に創業し、以来360年以上にわたって灘の地で日本酒造りに取り組んでいる老舗酒造メーカー「菊正宗」の酒造記念館に到着しました。酒造りの老舗としての風格が漂う記念館は、御影にあった「菊正宗」当主・本嘉納家の本宅屋敷内に建てられた酒蔵を昭和35年に現在の場所へ移築したもの。以前は旧記念館として一般公開されていましたが、阪神淡路大震災で甚大な被害を受け、平成11年に復興オープンしました。展示物は奇跡的に現存しているものが多く、創業以来守り続けている酒造りの様子を色濃く伝えています。
記念館はじっくり見て回ると1時間ほど楽しむことができます。入ってすぐのエントランスホールには、「菊正宗」をはじめ、灘五郷が日本を代表する酒どころとなった理由を知ることができる展示物やパネルが。良い酒造りには、さまざまな要素が複雑に絡み合っていることが分かります。例えば、酒米には酒造好適米の代表「山田錦」を使用。六甲山の北側の美嚢郡や加東郡が主な産地で、昼夜の温度差が大きく、粘土質な土壌に恵まれた風土の利や、高度な栽培技術を有する農家の協力のもと、良質な酒が生み出されています。
「宮水」も外せない要素の1つ。西宮の沿岸部から湧き出る硬水で、日本酒造りに欠かせない酵母菌のはたらきを活発にしてくれるリンやカリウムを多く含んでいます。
ほかにも、六甲山から吹く寒冷な風“六甲おろし”や酒の大消費地だった江戸へ出荷するための港が栄えていた点など、さまざまな要因が灘の酒を名酒たらしめていることがよく分かります。酒蔵も、寒風を受けやすく、南の日差しを遮るような構造をしているなど、酒造りに最適化された環境が整えられています。
続いて「酒造展示室」へ。昭和初期まで実際に使用されていたという国指定重要有形民俗文化財「灘の酒造用具」が多数展示され、酒造りの工程が8つのエリアにわたって紹介されています。室内は酒造りが行われる冬の夜中3時を演出した暗めの照明で、臨場感たっぷり。
まずは「洗い場」で精米した白米を踏み洗い。1日に約2トンもの米を真冬に素足で踏む作業は想像しただけで凍えそう……!その後、「釜場」で米を蒸し、「麹室(こうじむろ)」で麹菌の胞子をふりかけて繁殖させます。この工程で米のデンプンがブドウ糖に変化。酒造りはまだまだ続きます。
「酛場(もとば)」では米麹(こめこうじ)と蒸した米、水を桶に入れてすり潰し、日本酒の酛(もと)となる酒母(しゅぼ)を作ります。「菊正宗」では自然の力を活用した「生酛造り」にこだわっていて、その技術が代々受け継がれることで、上質な酒造りが行われているそうです。このあと「造蔵」で酒母に米麹や蒸米、水を3回に分けて加え発酵させる「三段仕込」を行い、熟成させて出来上がった醪(もろみ)を「槽場(ふなば)」でしぼります。完成した酒を「囲桶(かこいおけ)」と呼ばれる大きな桶で半年から1年かけて熟成。秋口に清酒として販売されます。
展示室では文化財を使って当時の様子が再現されているので、まるで自分も酒造りを追体験しているような気分を楽しむことができました。
見学を堪能した後は、物販コーナーへ。「菊正宗」で作られた記念館限定の日本酒やオリジナルグッズなどが多数販売されていて、思わず目移りしてしまいました。セットで楽しめるおつまみも充実しています。
「菊正宗」で作られたお酒の試飲ができる「唎酒(ききざけ)コーナー」も要チェック!無料の唎酒のほか、6種類のお酒から好きなものをチョイスして、おちょこで2種類1杯ずつ楽しむこともできます(500円)。
私が訪れた日は、無料試飲で『生酛しぼりたて』という期間限定の新酒と『古城梅酒』を頂きました♪『生酛しぼりたて』は、そのシーズンにしぼったお酒をすぐに火入れして瓶詰したフレッシュな日本酒。口に入れた瞬間はまるで水のような雑味のないスッキリとした感覚で口当たりがよく、ゴクっと飲み込んだあとに広がる日本酒の香りがよりいっそう際立ちます。『古城梅酒』もお酒初心者にも飲みやすく、「菊正宗」の酒造りを学んだあとに飲むと、よりおいしく感じられました。皆さんもぜひ立ち寄ってみてくださいね。
■ 江戸時代から伝わる「樽酒(たるざけ)」とは?
職人技を目の前で見学できる「樽酒マイスターファクトリー」
記念館を満喫した後は、道を挟んで隣接している「樽酒マイスターファクトリー」へ。酒樽作りの様子を30分ほどで見学できる、全国的にも珍しい施設です。
樽酒とは、原酒を木製の酒樽に入れることによって木香で風味付けをした清酒のこと。江戸時代に酒を運ぶ際、当時は今のように瓶が無かったため、木製の酒樽に酒を詰めたことから樽酒ができました。
「菊正宗」で造られる樽酒は、全国シェア80%を誇るそう。樽酒を現代の家庭でも気軽に楽しんでもらいたいと、瓶詰にした『純米樽酒』を販売しています。
酒樽に使うのは、奈良県吉野地方で採れる吉野杉。樹齢100年以上で、直径1m以上の杉だけを厳選して使用しています。エントランスとレクチャーコーナーで酒樽の作り方を学んだら、いざ、製樽を見学!
ここからは、実際に職人さんが酒樽を作っている様子を見学することができます。まずは、樽を締めるために使用する箍(たが)を作る「箍巻き」。全長10m近い竹をまっすぐに割ったものを、全身を使って輪の形に編み上げていきます。この日披露してくださったのは、弟子入りして4年目の荒井さん。四方八方にうねる竹を巧みに操りながら、あっという間に1つの輪っか(箍)が出来上がりました。
続いて見学するのは、杉樽を組み立てていく工程。材料となる杉は1つとして同じものがなく、切り出された後も形がそれぞれ微妙に異なります。木の湿度や質感を確かめながら少しずつ微調整を繰り返すため、ほぼ全ての作業を職人さんが素手の状態で行っています。使用する道具も、自分の手になじむよう全て職人さんが手作りしているんだとか。
見学させて頂いたのは、この道20年のベテラン、木南さん。寸分の狂いも出ないように、丁寧に、それでいて大胆に杉樽を組み立てていく様子を目の前で見られるのは、まさにここでしかできない体験です。
完成した杉樽は一時保存され、発注に合わせて原酒が詰められます。何日間か寝かせ、一番おいしく飲むことができるタイミングを見計らって瓶詰されます。出来上がった樽酒は、生酛造りで造られた原酒に吉野杉の爽やかな香りがほんのりプラスされ、まったりと濃厚ながらもスッキリとした爽快感を楽しむことができます。唯一無二の味わいと香りにリピータも多いそう。江戸時代から伝わる伝統的な日本酒・樽酒を、皆さんもぜひご家庭で楽しんでみてはいかがですか?
記念館の最寄り駅・六甲ライナー南魚崎駅の目の前には住吉川が流れます。見学した後はぶらり散歩しながら風に当たって、唎酒の余韻を楽しみました。
このエリアは灘の酒蔵の記念館などが点在しているので、散策しながらいろいろなスポットに立ち寄ってみるのもおすすめですよ♪
DATA:
◇菊正宗酒造記念館
【住 所】兵庫県神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
【時 間】9:30~16:30
【休館日】年末年始
【観覧料】無料 ※唎酒は一部有料
【TEL】078-854-1029
【HP】https://www.kikumasamune.co.jp/kinenkan/
◇樽酒マイスターファクトリー
【住 所】記念館に隣接
【時 間】10:30~/14:00~/15:00~
【休館日】記念館休館日に準ずる ※事情により見学会を行っていない場合があります
【観覧料】無料
【TEL】078-277-3493
【HP】https://www.kikumasamune.co.jp/tarusake-mf/
※見学希望の場合はHPから予約を
【HYOGO!ナビWEBサイト関連ページ】
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掲載日:令和4年3月17日 グルメ