◇「兵庫テロワールlab.」テロワール研究員レポート
食や文化を味わい楽しみ、それらが生まれたルーツや背景を探り、受け継いできた人の想いや技術に触れる。大地の恵みを堪能する“兵庫テロワール旅”の情報を、現地で体感した「テロワール研究員」の視点でお届けします。
酒蔵見学や発酵食レストランでのランチ、麹屋での買い物も。
発酵文化が深く根付く宍粟で、“発酵”づくしの一日を。
免疫力の活性化などで再び脚光を浴び、今や日本のみならず、世界的な大ブームとなっている“発酵食品”。
そんな発酵食品のディープな魅力と美味しさが体感できる旅先として今回、発酵文化が深く根付いている“発酵のふるさと”、宍粟(しそう)市をご紹介します!
宍粟市が“発酵のふるさと”を掲げている理由は、まず宍粟市は「日本酒発祥の地」なのです。
現存する最古の風土記『播磨国風土記』に、宍粟市一宮町の庭田神社で、初めて“麹”を使って“庭酒”を造り、神様に献上したことを意味する記述が残っています。
『播磨国風土記』編纂1300年を記念したプロジェクトでは、庭田神社で麹菌を採取することに成功。その麹菌を使った日本酒や甘酒が製造販売されています。自然界からの天然の麹菌が採取できるのはとても珍しいことだそうで、“奇跡の麹”と呼ばれているんです。
宍粟市内には数軒の麹(こうじ)屋さん
発酵文化が身近にある町
日本酒づくりが盛んだった宍粟市では、古くから発酵文化がまちに根付き、今も漬物や味噌といった発酵食づくりが身近にあります。
市内には、麹屋さんも数軒あるんです。
「横治糀店」は、宍粟市山崎町にある麹屋さん。
看板も何もありませんが、地元の人が麹を買いに来ます。横治さんは四代目。曾祖父が明治17年に始めて父の代までは「横槌醤油」として醤油も製造されていたそうです。
「横治糀店」の麹は、すべて手作りです。
《横治さん談》『使うのは、自分たちで育てた米と近所の農家が栽培された米です。温度や湿度を管理した麹室の中で、何度も手で混ぜながら、3日間かけて育てます』。
私は発酵食づくりにハマっているんですが、麹はすべての始まり。美味しい発酵食を作るためには、質の良い強い麹が欠かせないんです。
今朝できたばかりの麹を見せてもらいました。
白くふわふわの菌糸に包まれていて、とても綺麗!
《横治さん談》『麹づくりの原料は、米のほか、豆や麦など色々あります。“麹”という字は中国から伝わった漢字で麹全般を指し、米で作る麹は“糀”とも書きます。白い花が咲いたような見た目から“糀(こうじ)”という和製漢字ができたそうで、うちでは“糀”を使っています』。
「横治糀店」で製造しているのは、麹、甘酒、米味噌、塩糀、醤油糀。
《横治さん談》『夫婦二人の小さな店で、すべて手作業ですから、うちで育てているのは米を使う米糀だけ。味噌や塩糀なども米糀を使って手作りしています。地元の小学校の給食でも食べてもらっているんですよ』。
昨年、宍粟市の山崎給食センターが「全国学校給食甲子園」で優勝を果たしたのですが、その際の食材に「横治糀店」の甘酒・塩糀・醤油糀も使われていたそうです!
「播州一献」の銘柄で知られる世界的にも評価の高い老舗酒造
“発酵のふるさと宍粟”の旅のメインは、市の中心部にある「酒蔵通り」。
中国自動車・山崎ICから車で約5分の場所にあり、趣のある街並みが続いています。
江戸初期には30軒以上もの酒造家が軒を連ねていたという「酒蔵通り」。往時の面影が残る通りには現在、江戸時代創業の酒蔵「山陽盃酒造」と「老松酒造」があります。
山陽盃酒造は、「播州一献」の銘柄で知られる、1837年創業の老舗酒造です。
江戸末期~明治期に建築された母屋を再建した建物は、兵庫県の景観形成重要建造物に指定されていて、中に直営ショップがあります。
酒瓶がズラリ並ぶ店内で出迎えて下さったのは、杜氏で7代目を継承予定の壺阪雄一さん。
《壺阪さん談》『宍粟は、面積の9割以上を森林が占め、清流にも恵まれた自然豊かな地です。うちの看板銘柄「播州一献」は、兵庫県原産の米を使い、揖保川の清流の伏流水を仕込水に、手間暇をかけてつくった、播州の地ならではの酒です』。
おすすめの商品をお聞きしました。
《壺阪さん談》『色々な賞を頂いたこともあって、「播州一献 山田錦純米大吟醸」が人気です。特A地区・播州吉川産の特等山田錦を35%まで磨き上げた、上品な甘みと旨味がバランスの良い酒で、若いメロンのような香りが特徴』。
山陽盃酒造のお酒は、海外でも数々の賞を受賞していて、壁には賞状がズラリ。
中でも「播州一献 純米大吟醸 山田錦」は、2021年に世界で最も影響力を持つとされるワイン品評会「IWC」の日本酒部門で最高評価のGoldメダルを受賞。2022年には、仏のソムリエによる日本酒コンテストでプラチナ賞を受賞。
ふくよかな味わいで、日本酒好きの私にとって、特別な日に飲みたい極上のお酒です。
《壺阪さん談》『旅のお土産として、スパークリングのお酒「CIDRE RonRon」も好評です。使用するリンゴは、宍粟市波賀町や豊岡など兵庫県産のみ。ワイン酵母やシードル酵母ではなく、酒蔵ならではの清酒酵母を用い、清酒造りの技術で製造しています』。
シードルというと甘いイメージですが、こちらは甘さ控えめで泡がきめ細かく、上質なスパークリングワインといった感じ。
《壺阪さん談》『実はうちの酒蔵は2018年に火災で大半が焼失したんですが、その際、地元の方々が非常に力になってくださって、本当にいい町だなって再認識したんです。そこで町の魅力を広く発信すべく、杜氏の酒造りの技術を惜しみなく注ぎ、地元産のリンゴのみを使って誕生したのが「CIDRE RonRon」です』。
壺阪雄一さんにお土産におすすめの銘柄をセレクトしてもらいました(上の写真)。
写真中央の「三笑」は、宍粟市産の酒米・兵庫夢錦を用いた地酒で、宍粟市限定販売品。かつて本家門前屋という酒蔵が製造していた銘柄を、山陽盃酒造と老松酒造が復刻したもので、山陽盃酒造の「三笑」は生酛純米。
右が「CIDRE RonRon」のセミスイートとドライで各360ml/1,078円(税込)、720ml/2,145円(税込)。
山陽盃酒造の直営ショップは、“発酵セレクトショップ”をテーマにしていて、お酒の他に、漬物や塩麴を使った焼き菓子、播州山崎藍染織など、発酵を活用した地元の商品も揃っています。
最長で3尺(約90㎝)になる長い「宍粟三尺」を、酒蔵の酒粕で漬けた「宍粟三尺きゅうり」は、酒のあてにもぴったりですよ。
酒蔵見学や直営ショップでの試飲
発酵がテーマのレストランでランチも!
「老松酒造」は1768年創業で、山崎藩ご用達もつとめた老舗。
昔ながらの製法を守り継ぎ、コンピューター制御に頼らず、丹波杜氏の熟練の技と経験による酒造りをしています。
仕込みの期間である9月から1月以外は、いつでも無料で酒蔵見学ができます(要予約)。
見学は20分ほど。前野久美子専務の分かりやすく面白い解説付きで、洗米から仕込みへ至る酒造りの工程を見せてもらえます。
老松酒造では2019年、築200年以上の母屋を改装し、発酵をテーマにしたレストラン「老松ダイニング」をオープン。
「日本酒の原料となる麹を使った発酵食は、健康にも美容にもダイエットにも、良いこと尽くしなんです」と、前野久美子専務。
ランチは、「発酵繋(つながり)ランチ」2,200円(税込) と、「発酵(ありがとう)ランチ」1,500円(税込)の2種類。※ランチはかなりの人気のため事前予約がおすすめ。
▲ 発酵繋(つながり)ランチ 2,200円(税込)
玄米を圧力炊きして3日間かけて発酵させた「発酵玄米」、自家製の人気の酒粕で作った粕汁、自家製の醤油麴や塩麴で漬けた魚や野菜の発酵盛り合わせ、酒蔵鍋と、盛りだくさん。
デザートは玄米ヨーグルト。食前酒も頂けます。
まさに発酵づくしで、麹を知り尽くした酒蔵ならではの手の込んだ発酵食が存分に堪能できますよ。
こちらでランチを頂くと翌朝、肌やお腹の調子が良いと地元女性の間でも評判です。
レストランの横にはショップも併設されていて、すべてのお酒が試飲できます。試飲は2杯100円。
《前野さん談》『せっかく蔵元に来られたなら、ぜひ生酒を試して欲しいですね。醪(もろみ)を搾った後、火入れしないお酒が生酒なんですが、香りやのど越しがとても良いんです。冷蔵保存が必要なデリケートなお酒なので、蔵元で造りたてを味わってみてください』。
お土産にしやすい小瓶も豊富に揃っています。「老松ダイニング」で使われている自家製調味料や酒粕なども購入できます。
中でも人気なのは、『山椒酒蔵もろみ』518円、『新粕 酒かす』453円、ランチのデザートに登場する『玄米ヨーグルト』210円。『玄米ヨーグルト』は無農薬玄米を1週間かけて発酵させ、豆乳を混ぜてさらに発酵させたもの。植物性でお腹に優しく、整腸作用もばっちりです。
酒蔵を見学して、お気に入りの銘柄探しを楽しみ、発酵づくしのランチを頂く。そして、麹や発酵調味料を持ち帰って、家でも発酵食を楽しむ。
“発酵のふるさと・宍粟”の旅、いかがでしょうか?
DATA:
◇ 横治糀店
兵庫県宍粟市山崎町上寺199-1
Tel:0790-62-2655
営業時間:10:00~17:00
定休日:不定休
◇ 山陽盃酒造
兵庫県宍粟市山崎町山崎28
Tel:0790-62-1010(事務所)
営業時間:11:00~16:30
定休日:年末年始
http://www.sanyouhai.com/
https://www.instagram.com/sanyouhaishuzo/
◇ 老松酒造
兵庫県宍粟市山崎町山崎12
Tel:0790-62-2345
営業時間:10:00~17:00(ランチ11:30~14:00)
定休日:木曜 ※ランチは予約がベター
http://s-oimatsu.com/
※記事中の価格はすべて税込みです。
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掲載日:令和5年3月3日 グルメ