◇「兵庫テロワールlab.」テロワール研究員レポート
食や文化を味わい楽しみ、それらが生まれたルーツや背景を探り、受け継いできた人の想いや技術に触れる。大地の恵みを堪能する“兵庫テロワール旅”の情報を、現地で体感した「テロワール研究員」の視点でお届けします。
2つのカニ水揚げ港を持ち、「活」の松葉ガニに徹底的にこだわる漁師町でカニ好きをも唸らせる「かにソムリエ」によるカニ料理を食す
11/6松葉ガニ漁解禁!
兵庫県北西端の日本海沿いに位置する新温泉町の浜坂は、町内に2つのカニ水揚げ港を持ち、松葉ガニの漁獲量も国内トップクラス。カニのスペシャリスト「かにソムリエ」を養成し、町ぐるみで上質なカニの提供にこだわっています。
知名度については有名漁港に遅れをとっているものの、カニの質の高さは間違いなく、リピーター客がとても多いんです。
“カニの町・浜坂”のカニがとびきり美味しい理由を探ります!
漁業の町である浜坂では、今年もズワイガニ(松葉ガニ)漁が始まりました。
町には、「浜坂漁港」と「諸寄(もろよせ)漁港」と、カニが水揚げされる港が2つあり、あまり知られていませんが、国内トップクラスの漁獲量を誇っています。
とは言え、ズワイガニと言えば、今や各地にブランドガニがある中で、浜坂産のカニの質が高いと言えるのはなぜ?他の町と何が違うの?と思いますよね。
なぜ浜坂のカニが美味しい理由を、「かにソムリエ」の会 会長の清水左知子さんに聞きました。
3年間の研修を受けた「かにソムリエ」が50人!
町ぐるみで“本当に美味しいカニ”を提供
まず、「かにソムリエ」とは何でしょうか?
「かにソムリエ」の会 会長・清水さんにお聞きしました。
《清水さん談》『浜坂が独自で養成したカニのエキスパートです。3年間をかけて約30回の研修を受け、最後に厳しい試験に合格した人が認定されます。例えば、カニの選別名人からは良質で美味しいカニの見分け方、料理名人からは捌き方、伝説の漁師と呼ばれる漁業組合長からは漁場や漁法について学びます』。
「カニソムリエ」の人数はすでに50人だそうです。水産関係者や宿のスタッフなど元々カニに携わっていた人がほとんどで、さらに3年かけて専門知識と技術を習得。浜坂の町はカニのプロだらけですね。
なぜ「かにソムリエ」が誕生したんですか?
《清水さん談》『浜坂にお越し下さったお客様に、上質なカニを“最も良い状態”で味わって頂きたい。そのため、五感すべてで満足頂ける「おもてなし」ができるよう、町を挙げて取り組もうということで誕生しました。浜坂漁港で水揚げされる松葉ガニは素晴らしいのですが、知名度アップが課題のため、「カニの町・浜坂」をPRすることも目的です』。
上質のカニの鮮度を保つ「活がに」への徹底的なこだわり
ブランドガニの名乗りを上げている漁港がたくさんある中で、「浜坂産のカニ」が美味しいと自信を持って言える理由は何でしょう?
《清水さん談》『3つポイントがあります。1つ目は、カニの鮮度。
浜坂では新鮮なカニを食べてもらうため、「活ガニ」に徹底的にこだわっています。浜坂には、2つの大きな漁港がありますが、カニ漁に出る13隻の船が全て、最新のろ過装置付き冷海水槽を設備しています。カニは温度変化に弱いので、獲ったら素早く細菌を洗い流し、深海と同じ3℃ほどの滅菌冷水の中に入れ、温度管理を確実に行いながら、活かしたまま漁港まで運ばれます。山陰でも有数の設備を誇っているんです。
そして漁船が帰港すると、カニはすぐに港の冷海水入り水槽に入れられ、活かしたまま「活競り」が行われるんです』。
浜坂の松葉ガニの漁獲量が多いのは知っていましたが、「活け」にこれほどこだわっているのは初めて知りました。浜坂産のカニが美味しい理由には、質の良いカニを「活かす」ための漁師さんたちの努力があるんですね。
味の良いズワイガニが生息する火山灰が堆積した栄養豊富な海底土壌
《清水さん談》『浜坂産のカニが美味しい理由の2つ目は、松葉ガニの姿の美しさと濃い味です。
浜坂のカニが獲れる漁場には、火山灰が堆積しています。そのためプランクトンなど栄養分が豊富で、カニの肉質の旨味が凝縮されています。また、海底が火山灰なのでカニに傷がつきにくく、スラリと脚の長い、質の高いカニが多い。
松葉ガニは深いところに生息しているほど身が詰まっているのですが、底引き網で深海を狙うにはかなりのテクニックが必要。浜坂の漁師さんには、深い海でも網を引ける高度な技術力があるので、美味しい松葉ガニが獲れるんです』。
118ものランクがある細かく厳しい選別
質に見合った価格で消費者へ
《清水さん談》『3つ目は、細かく厳しい選別と、安定供給。
浜坂にはカニ漁に出る船が13隻あるのですが、小さいものでも56t、数隻は144tの大型船。そのため多少シケていても漁に出港できる上に、水揚げ港が2つあることで、安定して競りも行えます。
そして、帰港から競りまではわずかな時間しかないのですが、経験豊富な「選り子」さんたちが、驚くほどの速さで重量や品質別に、118以上もの細かいランクに分けます。一見するだけではわからないほどの小さなキズやヤケも厳しく選別されます。少しでもキズがあれば、そこからすぐに鮮度が落ちていくからです。
漁師さんも漁協も手間のかかる作業ですが、質と料金がちゃんと見合ったものを提供するというのが、浜坂の漁業者のプライドなんです』。
その徹底ぶりが、高い評価と信頼を得ているんですね。
《清水さん談》『そして、漁師さんたちが頑張って水揚げしたカニを、最良の状態でお客様に提供するのが、私たち「かにソムリエ」の役目です』。
カニ好きをも唸らせる至高の美味しさ
「かにソムリエ」が提供するカニフルコース
浜坂のカニはとびっきりの鮮度が特徴ということは、本当の美味しさを知るには現地で食べるのが一番ですよね?
《清水さん談》『そうですね、「活ガニ」が自慢なので、やっぱり朝に揚がったカニを、その日に食べるのが一番美味しいです。ほとんどの宿がフルコースで提供しているので、「刺し」「茹で」「焼き」「カニみそ」と、ぜひコースで味わって欲しいです』。
《清水さん談》『「かにソムリエ」がいる宿が多いので、「食べごろ」を考え、最良の状態でカニを提供しています。例えば「カニ刺し」は、まず、食事のスタート時間に合わせてカニを捌きます。「カニ刺し」は、捌いてそのまま食べる場合は、とろりとした食感。氷水にくぐらせるとプリっと弾力のある食感と、それぞれ味わいが違うんです。焼きの火加減や鍋の茹で加減なども、美味しい頃合いを逃さないことが大事』。
調理法によって、カニの旨味や食感って大きく変わりますよね。
火の通り具合は、見極めるのがすごく難しいので、プロに「食べごろ」を教えてもらえるって最高です。ちょうどいい「食べごろ」で食すと、美味しさがさらに際立つんでしょうね。
《清水さん談》『私は「清水や」という民宿を経営していますが、カニを食べなれた人でも、「これほど美味しいカニを食べたのは初めて」と喜んでくださいます。
華やかな観光地などはない漁師町ですが、本当に美味しいカニ料理を求めて何度も訪れてくださる方がとても多いんですよ』。
「カニソムリエ」の存在がマスコミでも度々取り上げられ、「カニの町」としての浜坂の人気はじわじわ上昇。一度浜坂のカニ料理を味わうと、リピーターになる人が多いそう。
カニを味わうためだけで訪れる価値がある浜坂ですが、温泉もちゃんとあります(笑)。
浜坂の温泉は効能が顕著で、付近の景観が優れていることから、国民保養温泉地に指定されているんですよ。
「かにソムリエ」が教える美味しいカニを見分けるポイント
最後に、お土産にカニを購入する人も多いので、美味しいカニを見分けるポイントを教えてください。
《清水さん談》『カニの甲羅についている黒いブツブツは、カニビルの卵で、硬い物にくっつく性質があります。甲羅にブツブツが多いほど、硬いことが証明されます。甲羅が硬いと重みも増すので、美味しいカニの条件の一つなんです。購入時はついキレイな甲羅を買いそうになりますが、ブツブツはカニの美味しさの重要な目印。
脚が長いカニも、美味しい松葉ガニの特徴です。
「かにソムリエ」がいる宿やお店がたくさんあるので、美味しい茹で方や食べ方など、どんどん聞いてくださいね』。
「カニの町・浜坂」には、カニが購入できる鮮魚店がたくさんあるので、清水さんのアドバイスを参考に、じっくり選んで美味しいカニを買って帰ってください。タイミングが合えば、脚落ちなどでお得な価格になったカニが買えるのも漁師町ならではですよ。
「山米鮮魚」は、社長が浜坂漁港公認の仲買人で、毎朝自ら厳選して競り落としたカニを店頭で販売。カニ以外の日本海の海の幸や干物、オリジナルの加工品なども揃っています。
「宇野鮮魚店」昔ながらの魚屋さんで、地元で水揚げされた新鮮な魚介を販売。家族経営のアットホームなお店なので、色々なリクエストにも気さくに対応してくださいます。
「マル海渡辺水産」は、浜坂漁港に隣接する海産物魚市場。
カニ漁の期間中は、広い店内に松葉ガニがズラリと並びます。取り扱う数が多くて価格帯に幅があるので、予算に合わせて選べます。お土産にぴったりな加工品も豊富に揃っています。
「マル海渡辺水産」館内には、手軽にカニ料理が味わえる御食事処「味波季」もあります。
写真は、一番人気の「かに膳」で、カニ刺し、焼きガニ、カニの小鍋など品数もボリュームもたっぷりで、4,400円(税込)とコスパ最強です。
漁師・漁協・水産会社・旅館と、すべてが連携し、町を挙げて“上質のカニを最良の状態”で提供することに真摯に取り組んでいる浜坂。
浜坂カニ漁の期間は11/6~3/20頃までです。
とびっきりの鮮度の松葉ガニが、最高に美味しく味わえる「カニの町・浜坂」へ、ぜひ遊びに来てください。日帰りプランがある宿もたくさんありますよ!
DATA:
◇ 浜坂観光協会
https://www.hamasaka.com/
◇ 山米鮮魚
兵庫県美方郡新温泉町三谷224-1
TEL:0796-82-5028
営業時間:8:00~18:00
定休日:不定休
http://www.yamayone.com/
◇ 宇野鮮魚店
兵庫県美方郡新温泉町浜坂1970-1
TEL:0796-82-1383
営業時間:9:30~19:30
定休日:月曜日
◇ マル海渡辺水産
兵庫県美方郡新温泉町芦屋853番地
◎直売所
営業時間:平日8:00~15:00、土日祝8:00~16:00
定休日:不定
◎お食事処 味波季
営業時間:平日11:00~15:00、金土日祝は11:00~15:00と17:00~21:00
定休日:不定
http://www.maruwa55.com/
※記事中の価格はすべて税込みです。
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但馬を支える海の暮らしを探訪 SDGsな定置網漁見学と漁港で水揚げされた海の幸を味わう
定置網漁は、魚を捕りすぎず環境に優しい持続可能な漁法。昔ながらの漁法が再び脚光を浴び、世界的にも注目されています。山陰海岸ジオパークの地形が育む豊富な水産物を捕る兵庫県下で唯一の「大型定置網漁」を、遊漁船で見学。見学後は、漁港で水揚げされた地元でしか食べられない新鮮な海の幸を使った朝食をご提供。(遊漁船で定置網漁法の説明を聞く)
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掲載日:令和4年11月11日 体験 グルメ