◇「兵庫テロワールlab.」テロワール研究員レポート
食や文化を味わい楽しみ、それらが生まれたルーツや背景を探り、受け継いできた人の想いや技術に触れる。大地の恵みを堪能する“兵庫テロワール旅”の情報を、現地で体感した「テロワール研究員」の視点でお届けします。
国内外のプロが愛する「三木金物」
長く使い続けられる本物を買いに、日本有数の金物の町へ。
大工道具から調理器具や日用品にいたるまで、日本には、世界にも類を見ないほどたくさんの種類の「金物」があるといわれています。
そんな「金物」の日本屈指の産地が、神戸市の北に隣接する三木市。
実は日本で最も古い“鍛冶のまち”でもあり、その歴史は約1500年前にまで遡ります。
国内はもちろん、海外のプロからも指名買いされるほど品質が高い、三木市の「三木金物」についてレポートします。
鍛造という伝統技術を守り継ぐ鉋製作所
最初にお伺いしたのは「山本鉋製作所」。
三代目の山本芳博さんと四代目の健介さん親子が営む工房で、100年に渡って鉋(かんな)を作り続けておられます。健介さんに、日本独自の「鍛造(たんぞう)」という技法を用いた作業工程を少し見せて頂きました。
《健介さん談》『ぱっと見ではわかりませんが、鉋の刃物は2層になっています。柔らかい地金(じがね)と、硬い鋼を接合して一枚の刃にする。1000度以上ある火で熱して地金を伸ばし、鋼と接合し、一体になるようにハンマーで叩いていきます。これが鍛造(たんぞう)です』。
汗が止まらない猛烈な暑さの中、加熱してハンマーで叩く作業を何度も繰り返す。
真っ赤に熱した鉄を叩き、“鍛える”作業。
薄暗い作業場に、赤々と火が燃え、飛び散る火花。
《健介さん談》『一番大事なのが温度。炎の色を見て判断するので、作業場は暗いんです。地金も鋼も同じものはないので、温度を計っても上手くいかない。経験と勘が必要で、これが難しい』。
鍛造の後、再び加熱して鍛え直し、幅や厚みを調整。
さらに、700度ほどの低温で鋼を軟化する焼き鈍しや、研磨などいくつもの工程を経て、焼き入れや刃付けの後やっと完成するのだそうです。
切れ味のカギを握る「地金」と鋼の二層構造
そして、切れ味の重要なカギを握るのが、「地金」選び。
江戸時代の終わりから明治時代に製造された「錬鉄」と呼ばれるリサイクル鉄なのだとか。
《健介さん談》『昔の鉄道のレールや船の錨などに使われていたもので、精錬の際に抜けなかった不純物が残っている鉄なんです。よく見ると鉄の中にある黒いツブツブが不純物で、この不純物があることで鋼とくっつきやすくなり、切れ味も良くなる。オールステンレスのものとは研ぎやすさが格段に違うので、プロは錬鉄製の鉋しか使いません』。
精錬技術が上がり、新たな「錬鉄」は製造されないため、古鉄業者から情報が入ると全国あちこちへ出向いていく。古い鉄なら何でも鉋の素材になるという訳でないため、質の良い「錬鉄」の確保は年々難しくなっていると言います。
海外からの注文やオーダーメイドが増加
健介さんに現状について伺うと、最盛期には50軒ほどあった鉋鍛冶屋が4軒まで減少したものの、近年は欧米を中心に海外での売上が増えているそう。
《健介さん談》『イベントやSNSで知ったという方が多いと思います。例えば、いかに薄く削れるかを競う「削ろう会」という全国大会があるんですが、外国の方もたくさん参加されていて、日本の鉋の繊細な切れ味に驚かれるんですよ』。
エンドユーザーからの直接注文が増加しているのも近年の傾向だとか。
《健介さん談》『オーダーメイドとか特注が増えましたね。使い慣れている鉋と同じように作って欲しいといったものから、小刀や竹ひご刀など全く違うものの依頼もあります』。
《健介さん談》『鍛冶屋の数が減っているので、どんな希望にも応えられないといけない。それに、使い手の声を直接聞くようになると、どんな風に使うのか、何を作るのか、色んなことが気になり始めて、それがやりがいにも繋がっている気がします。一つ一つ自分で手掛けるので、仕上がりは目の前にある。どんなものでも常に同じクオリティを出せるように、難しいけれどそういう思いで作っています』。
1500年の歴史を受け継ぐ“鍛冶のまち”
ここで少し「三木金物」の歴史を紹介します。
三木の“鍛冶のまち”としての歴史は、5世紀中頃に、大和鍛冶と、百済からこの地に住みついた韓鍛冶の交流から始まったとされています。
そして、発展の契機となったのが、戦国時代の羽柴秀吉による三木城攻め。
2年間に亘る籠城攻めの後、落城し荒廃した町を復興させるために、秀吉は各地から大工職人と、その大工道具を造る鍛冶屋職人を集めたことが、三木が金物の名産地として栄えることになりました。さらに秀吉は町を発展させるために、当地の年貢の減免などの優遇措置を施し、その後も長く江戸時代に至るまで免税が続いたとか。
さらに、「三木金物」を代表する大工道具の中で、伝統的な製法で製造される「のこぎり・のみ・かんな・こて・小刀」の5つは、「播州三木打刃物(うちはもの)」として伝統的工芸品にも指定されています。
山本鉋製作所の山本芳博さんと健介さん親子は二人とも「播州三木打刃物」の伝統工芸士さんです。
「三木金物」のHPには、こう紹介されています。
『三木金物の道具の切り口は、仕上げの作業がいらないほどの滑らかさで、「素材が息をする」とまで言わしめるほどの価値を持つに至りました。』
約2万アイテムが揃う「金物展示即売館」
国内はもちろん、世界のプロにも高く評価されている「三木金物」。
DIYや料理好きな方など、長く使い続けられる本物を求めて購入される人も多いそうですよ。
購入を考えている人におすすめなのが、「道の駅みき」の2階にある「金物展示即売館」。
三木市内の製造・卸企業70数社、約2万アイテムにも及ぶ金物製品を販売。手ごろな値段のものから伝統工芸士による逸品までが勢ぞろい。
プロご用達のお店ですが、一般客ももちろん購入できます。
専門スタッフがアドバイスしてくれる他、購入後のメンテナンスも永く受け付けているので、一生モノの道具も安心して購入できると評判です。
沢山ある金物の中でも私が一番気になったのが包丁。釣りが趣味の父が釣ってくる魚を、母が捌く姿を幼い頃から近くで見ていたので、出刃包丁をみるとその頃を思い出しワクワクが止まりません。私もmy包丁が欲しくなりました!
「道の駅みき」内のレストランでは、ご当地グルメの「鍛冶屋鍋」が人気です。
鍛冶職人が夏場の体力増強のために食したといわれる、タコとナスをメインにしたすき焼き風の郷土料理をアレンジしたもので、「鍛冶屋鍋カレー」と「鍛冶屋鍋天丼」、2種類があります。
私は「鍛冶屋鍋カレー」1,050円(税込)を頂きました。
鉄鍋の中でジュージューと音を立てるカレー。素揚げしたナスとタコが載っていて、食べ応え十分。鉄鍋に入っているので、ずっと熱々で最高です!
お米も美味しくて、最後にはおこげになっているのもいい感じ。
一緒に行った同僚は、「鍛冶屋鍋天丼(味噌汁付き)」1,030円(税込)をオーダー。
ちょっと無骨な感じがなかなか格好良い分厚い鉄鍋は、「金物展示即売館」で販売しているので、自宅でも熱々一人鍋が再現できます。キャンプやBBQにも良いかも。
例年16万人が訪れる人気イベント「三木金物まつり」
今年2022年11月5日(土)・6日(日)には、「三木金物まつり」が開催されます。
例年16万人が訪れる大人気イベントで、今年は3年ぶりの開催。メイン会場は、三木山総合公園です。
金物の展示即売会や、お得な値段で買える金物びっくり市、包丁研ぎコーナーなど、金物関連のほか、飲食物の販売もあるそうです。
毎月1回「古式鍛錬」の実演
三木市立金物資料館に隣接する金物神社の「古式鍛錬場」では、毎月1回、三木金物古式鍛錬技術保存会が、「古式鍛錬」と呼ばれる昔ながらの鍛冶の実演を行っています。
ふいごという送風機と炭火を用い、槌(つち)で鉄と鋼を鍛える迫力ある作業風景が見学できます。
一生モノの道具を探しに、職人さんたちの熱い思いを体感しに、「金物のまち」へ出かけてみませんか。
DATA:
◇ 山本鉋製作所
http://yamamotokanna.sakura.ne.jp/index.html
◇ 道の駅みき
兵庫県三木市福井2426番地先
TEL:0794-86-9500
営業時間:金物展示即売館/9:00~17:00、レストラン/11:00~17:30(土日祝は10:30~)
休み:年末年始
https://mikiyama.co.jp/
◇ 古式鍛錬行事
毎月1回、日曜日に開催
※日程は下記サイトに掲載
時間:10時~13時(但し6~9月は9時~12時)
場所:古式鍛錬場(三木市上の丸町5-43三木市立金物資料館横)
◎お問い合わせ:三木工業協同組合内・三木金物古式鍛錬技術保存会
TEL:0794-82-3154
https://www.miki-kanamono.or.jp/
https://www.city.miki.lg.jp/soshiki/31/2942.html
◇ 三木金物まつり実行委員会事務局
三木市産業振興部 商工振興課
TEL:0794-82-2000(内線2234)
三木商工会議所
TEL:0794-82-3190
http://kanamono-matsuri.jp/
※記事中の価格はすべて税込みです。
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兵庫ならではのテロワールを体験できる“おすすめツアー”をご紹介
海ホタル鑑賞会と夏のカキをメインにした西播磨なぎさ会席(宿泊プラン)
瀬戸内の多島美と海の幸をまとめて体感できるプラン。姫路城を訪れる観光客(主にシニア層)をターゲットに、瀬戸内沿岸部の魅力である「絶景風呂」と「夏が旬!瀬戸内産の岩ガキ」(粒が大きくぷりぷりで味が濃厚)を自然のままレモンを添えてお召し上がりいただきます。金曜日お泊まりの方には、宿泊者限定!海ホタルの鑑賞会を実施します。
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掲載日:令和4年9月2日 体験