異なる2タイプの温泉を楽しもう
日本の温泉は火山の熱で温められた「火山性温泉」がほとんどですが、兵庫の有馬温泉やその周辺の宝塚温泉、武田尾温泉、灘温泉は世界でも稀な「非火山性温泉」であり、通称「有馬型温泉」とよばれています。
また、同じ兵庫県内でも城崎温泉や湯村温泉は神鍋山や玄武洞など数十万年前の火山群に起因した火山性温泉であり、火山性・非火山性の2タイプの温泉が共存しているのも兵庫の大きな特徴です。
周辺に火山がないのにも関わらず、有馬周辺の温泉は一体どのように温泉が湧き出てくるのか?それは海底に沈み込んだプレートが密接に関係しています。
同じフィリピン海プレートが沈みこむ条件下でも、九州には活火山が多く、近畿にないのは、プレートが形成された年代が違うためです。九州地方は、5000万年前以前にできた古いフィリピン海プレートが沈み込んでおり、地下100〜150kmの辺りでプレートの水分が放出されることで、マントルが融け、マグマが生成。大量のマグマが多数の火山を作り、それによって火山性の温泉が多く湧き出ています。
一方で、中国近畿の地下には、地球上で最も若い、2500万年前以降にできた新しいフィリピン海プレートが沈み込んでいます。プレートは、若いほど熱く、古いほど冷たいという特性を持ちます。ちょうど有馬の直下に沈み込んだ新しいフィリピン海プレートは熱く、地下60kmほどの浅いところで水が吐き出されるために、深いところではマグマをつくるために必要な水分が十分ではなく、その結果火山はできません。吐き出された水がマグマにならず地表に湧出する有馬型の非火山性温泉は、「プレート直結型温泉」と称されています。
温泉によって、マグマから出る水やガスの成分が混ざったり、地中を流れる際に岩石や化石の成分が溶け込んだりすることで、食塩泉や石膏泉、重曹泉、鉄泉、硫黄泉などさまざまな泉質に分類され、それによって温泉の色や匂い、効能も変わってきます。火山性・非火山性の2タイプの温泉が共存する兵庫では、より多彩な温泉を楽しめるのです。
日本列島は太平洋、フィリピン海、ユーラシア、北アメリカの4つのプレートがせめぎ合う世界最大の変動帯にあり、これらの地殻活動が火山活動や地震を引き起こす代わりに、多くの温泉に恵まれます。その中でも、多様な温泉という兵庫が持つ地球の恩恵を感じ、湯めぐりを堪能してみてください。
参考文献:光文社新書『「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係』巽好幸 (著)
さぁ、兵庫の温泉旅へ出かけよう
兵庫にはこのほか、草山温泉(丹波篠山市)、但東温泉(豊岡市)、浜坂温泉郷(新温泉町)、大沢温泉(神戸市)、波賀・東山温泉(宍粟市)など、数々の温泉地があります。温泉で感じられるのは、泉質の違いだけではありません。その土地が生み出した文化や歴史、グルメとともに楽しむ。そんな兵庫の“テロワール旅”を「温泉」を通じてお楽しみください。