兵庫陶芸美術館で丹波焼を知る、見る、楽しむ

兵庫陶芸美術館で丹波焼を知る、見る、楽しむ

兵庫県丹波篠山市に、約800年の歴史を持つ丹波焼の産地があるのをご存じですか?

今回は丹波焼のふるさとと言われる今田町立杭エリアにある兵庫陶芸美術館を訪ね、丹波焼の歴史と魅力をひもときます。

丹波焼が生まれた今田町立杭エリアとは?

 

▲四斗谷川(しとだにがわ)沿いに丹波焼の集落が広がる

 

今田町立杭エリアに丹波焼が生まれたのは今からおよそ800年前といわれています。初期の丹波焼は、水や穀物を保管するための壺*や甕*、調理のためのすり鉢など生活に欠かせない陶器が中心でした。

今も約50の窯元が食器や花器など、暮らしを彩る様々な器をつくっています。

 

日本には全国各地に伝統的な焼き物の産地がいくつもありますが、そのなかでも中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地を「日本六古窯」*と呼びます。丹波焼もそのひとつで、国の無形文化財に指定されています。立杭焼や丹波立杭焼と呼ばれることもありますが、すべて丹波焼と同じ意味です。

 

今田町はのどかな里山の風景が広がる美しい街です。町の中央を流れる四斗谷川(しとだにがわ)を境に東に兵庫陶芸美術館、西に窯元が集まる集落が広がっています。

見渡す限り大きな建物のない山間の静かな集落で、とても田舎に来たように感じますが、実は大阪、京都、神戸といった関西の主要都市から車で約1時間、電車でも2時間くらいの場所です。丹波篠山観光の中心地といえる篠山城周辺も車で約20分の距離なので、タクシーやレンタカーで周遊する旅行者も多いそうです。

 

▲丹波焼を代表する窯元のひとつ丹窓窯

 

一歩集落に入ると、瓦屋根の家々が集まり、あちこちに窯元の名前を記した看板が掲げられています。多くの窯元は自宅兼工房となっており、作品を販売するギャラリーを構えている窯元もあります。運が良ければ職人が器をつくったり、窯で焼く姿も見られるかもしません。

 

集落や窯元について、詳しくは「日本六古窯「丹波焼の里」今田町立杭エリア散策」の記事で紹介しています。

 

*日本六古窯……越前焼・瀬戸焼・常滑焼・信楽焼・丹波焼・備前焼の総称。日本遺産に選ばれています。

(リンク先:https://www.japan.travel/japan-heritage/popular/a4966b88-09bc-4beb-9d38-d055c65761ec)

 

*壺....日本の伝統的な陶器の容器です。丸い形をしており、口が狭く、底が広いのが特徴です。花を生けたり、お茶や酒を保存するのに使われることが多いです。装飾的な用途が主です。

 

*甕....日本の伝統的な陶器の大きな容器です。口が広く、全体的に丸みを帯びた形をしています。主に食べ物や飲み物を大量に保存するために使われ、味噌や漬物を仕込むのによく利用されます。実用的な保存容器です。

 

 

丹波篠山の豊かな自然を感じる、森の中の美術館へ

 

▲展示室へ続く渡り廊下。周囲の緑が見渡せる

 

今回紹介する兵庫陶芸美術館は、2005年に開館しました。四斗谷川を見下ろす高台にあり、周りは山や森、田畑など豊かな自然に囲まれています。まるで森の中にいるような自然豊かなロケーションで、展示棟、研修棟、茶室などの建物が散策路でつながっています。

 

▲現代陶芸家、金子潤氏による巨大な陶製アート作品が美術館入口で出迎えてくれる

 

もしあなたが初めて丹波焼の里を訪れるなら、まず最初に立ち寄ってほしいのがこの美術館です。なぜなら、展示を見ることで丹波焼がどのようなものなのか、深く知ることができるからです。

 

 

▲常設展示室

 

美術館には現在、3,000点以上の丹波焼が収蔵されていますが、時代によって色や形、用途は様々です。丹波焼というと赤土を使った素朴な風合いの壺や甕がイメージされますが、実は丹波焼に決まった様式はなく、丹波篠山でつくられた焼き物を総称して「丹波焼」というのだそうです。

 

▲江戸時代前期(1600年代)につくられた大甕。水もれを防ぐために鉄分を含んだ土(赤土部)で表面を覆っているので、独特の赤茶色の風合いが出る

 

常設展示では初期の丹波焼から近現代のものまで、歴史を追いながら見ることができます。いつの時代も生活に密着したものづくりをしてきたのが丹波焼の特徴です。時代ごとの生活様式の変化が器にもよく表れており、現代に近づくにつれ、花器や平皿など今の私たちの暮らしにも馴染むような陶器が増えていきます。

 

▲江戸時代後期(1800年代)につくられたお猪口*(兵庫県指定重要有形文化財)

 

丹波焼がバリエーション豊富で、時代によってスタイルを自在に変化させていったのには理由があります。

多くの陶芸の産地では、職人から作品を預かり商店に卸す仲買業者がいますが、丹波篠山は大阪や京都などにも出やすく、職人自身が街に出かけて商店に作品を卸してきたのだそうです。そうすることで職人たちは大都市の流行にも敏感に反応し、人々に喜ばれるものを工夫してつくるようになったといいます。

 

 

▲民藝運動をけん引したイギリスの陶芸家、バーナード・リーチ氏のもとで修業した丹窓窯の市野茂良氏の作品。表面の装飾技法はスリップウェアと呼ばれる

 

このように生活に密着してつくられた丹波焼は機能性とデザインに優れ、1960年代に入ると柳宗理*(やなぎそうり)ら民藝運動の作家たちによって美術的価値が見出されるようになりました。

 

ちなみに、常設展示室のほかに企画展示室もあり、こちらでは国内外の陶芸やガラス工芸など、様々な切り口で展覧会が企画されています。

 

*お猪口....日本の伝統的な小さな陶器製のカップで、日本酒を飲むために使われます。手のひらに収まるサイズで、風味を楽しむのに適しています。

 

*柳宗理....日本の著名なプロダクトデザイナーで、日常生活に根ざした機能的で美しいデザインを追求し、キッチン用品や家具、照明器具など、数多くの製品を手掛けました。柳宗理のデザインはシンプルでありながら使いやすく、多くの人々に愛されています。彼は民藝運動(日本の伝統工芸品の美しさや価値を再評価し、日常生活で使われる手作りの工芸品を推奨する運動)を推進した柳宗悦の長男でもあります。

 

丹波焼と現代アートが点在する散策路を歩こう

 

 

兵庫陶芸美術館のもうひとつの展示空間は、屋外の庭や散策路です。草木の間に隠れるように静かに、しかしたくさんの丹波焼の作品が飾られています。その多くは美術館が開館したときに、地域の職人たちが寄贈したものなのだといいます。一見、大きな石のようなものが、よく見ると巨大な丹波焼のオブジェだったり、遊び心のある作品もありますよ!

 

 

 

▲手前の2点は杉浦康益(すぎうら やすよし)氏による陶製のアート作品。一見、巨石に見える

 

▲植木に見えるこちらも現代アート作品

 

美術館では年に1度、国内外で活躍する著名な陶芸作家を迎え、県内陶芸家等との交流を深める著名作家招聘事業「アーティスト イン タンバ」を行っています。屋外に展示されている作品の中には、この事業を通じてこの地を訪れたアーティストが寄贈していった現代アート作品もあります。

 

 

美術館はもともとあった山の地形を活かしてつくられているため、木々や草花ももともとこの場所に自生しているものばかりなのだそうです。季節によって咲く花も変わり、秋には木々が華やかに色づきます。丹波焼や現代アートの作品とともに、この土地の持つ自然の美しさも味わうことができるというわけです。

 

見るだけじゃもったいない!陶芸体験やレストランで器に触れてみよう

 

 

作品を見た後は、陶芸体験のイベントやワークショップに参加するのも楽しいプランです。エントランス棟の工房では、職人たちのレクチャーのもと、実際に器に絵を描いたり、ろくろを回す体験講座が不定期で開催されています。

 

初心者向けのコースからプロフェッショナルなコースまであるので、本気で陶芸を学びたい人にとっても充実した内容です。(イベントやワークショップの日程は美術館のホームページ(日本語のみ:https://www.mcart.jp/)に掲載されています)

 

  

最後にこの美術館の絶景スポットを紹介します。

エントランス棟の2階にある広々とした展望デッキからは、和田寺山(わでんじさん)を背景に、窯元が立ち並ぶ集落を大パノラマで一望できます。広い空と豊かな山の緑が目いっぱい広がり、思わず深呼吸したくなる清々しさ。

 

 

展望デッキはダイニングカフェ「虚空蔵」とつながっており、景色を見ながらランチやカフェを楽しむことも。丹波篠山産の食材をたっぷり使ったパスタやコースメニューが味わえます。

 

見て、知って、丹波焼の里へ出かけよう

 

 

このように、展示を通して丹波焼がどのようなものかわかったら、実際に窯元を訪ねるのがより一層楽しくなるはずです。

 

美術館に併設する「丹波伝統工芸公園 陶の郷(すえのさと)」では、現在、今田町立杭エリアで活動している窯元の作品を購入することができます。美術館の収蔵品と似ているものもあれば、職人の独創性あふれる作品もあり、見ごたえ十分です! お気に入りの職人を探してみてはいかがでしょうか?

 

兵庫陶芸美術館(英語サイトURL:https://www.mcart.jp/global/en/)

住所:〒669-2135 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4

(※Google mapの埋め込みができるならリンクも/https://www.google.com/maps/place/%E5%85%B5%E5%BA%AB%E9%99%B6%E8%8A%B8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8/@34.983783,135.13116,15z/data=!4m6!3m5!1s0x60007217d0b60be9:0x283fc0a041daba6c!8m2!3d34.9837829!4d135.1311601!16s%2Fg%2F121lsz60?hl=ja&entry=ttu

営業時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで)

休館日:毎週月曜日(年末年始、メンテナンス期間)

駐車場の有無:あり(無料)