自然に囲まれた出石で坐禅体験
アップルのスティーブ・ジョブズをはじめ、ツイッターの共同創業者であるエヴァン・ウィリアムズ、映画監督のマイケル・ムーアなど多くの有名人が影響を受けたと言われる坐禅。国を問わず、ここまで多くの人を魅了する理由は、坐禅がもつ「シンプルさ」や「ムダを削ぎ落とす」といった考えにあるのではないでしょうか?
城崎温泉からほど近い、城下町出石にある「宗鏡寺(すきょうじ)」は本格的な禅体験が出来るスポット。坐禅を通じて、日本の奥深い文化や、そこに宿る精神を感じに出かけてみましょう。
沢庵和尚ゆかりの寺「宗鏡寺」で本格的な坐禅体験を
「沢庵寺(たくあんでら)」という別名で街の人や観光客に親しまれている宗鏡寺。「たくあん」とは、日本で最もポピュラーな漬物の一つで、大根を洗い干したものを米ぬかに塩を混ぜた物(ぬか床)に漬けて上から重石をおきます。ポリポリとした食感や大根から引き出された旨味、ほんのりきいた塩気が、甘い白米と絶妙にマッチします。
その名前は、沢庵(たくあん)和尚に由来するもので、彼がたくあん漬を広めたと言われています。宗鏡寺はそんな沢庵和尚が修行した寺で、彼が作った「鶴亀の庭」や「心字の池」、などの美しいお庭が数多くあり、そういった美しい自然に心が癒されることでしょう。
その自然に囲まれた中でできる本格的な禅体験、とてもワクワクしますね。
出石のまちを守ってきた宗鏡寺
出石のシンボル「辰鼓楼」から坂道を登ること10分、宗鏡寺の山門が見えてきました。
出石の城主の菩提寺*として1392年に建てられた宗鏡寺。戦乱の時代を経て荒れてしまった宗鏡寺を再興したのが、先程お話した沢庵和尚です。以来、多くの人に由緒正しいお寺として親しまれるようになりました。
また位置的には、出石城の北東に位置し、町の鬼門を守っています。(日本では、北東の方角を不吉なものがやってくる「鬼門」と考え、守りを置く考えがあります。)
山門をくぐると眼の前には本堂が。本堂の周りには、緑の美しい庭が広がっています。
*菩提寺...特定の人や家族のために建てられたお寺のことです。主にその人の魂が安らぐように祈る場所として使われます。
いざ、坐禅体験。
「坐禅体験とは心を無にして、自分自身と向き合う修行。しかし、いきなりそんなことを言われても多くの人が戸惑ってしまいますよね。坐禅体験のゴールとしては、自分を引き止めている雑念や前に進めないでいる原因などを、心を整理することで客観的に捉え、新たな一歩を踏み出せるようになればいいと考えています」と語るのは小原遊堂和尚。
坐禅の体験自体は約25分で、10分の坐禅2回とその間に5分の休憩時間が入ります。(全体ではお茶の時間や「斎座(さいざ)」とよばれる食事時間が入るため、1時間半ほどになります)
ずっと座りっぱなし時間が続くため、はじめに行うのが軽いストレッチで、腰回りや脚の筋肉を解していきます。お庭の緑や鳥のさえずりを聞きながら身体を動かすのはそれだけで気持ちがいいですね。
身体(呼吸)を整えることが、心の安定につながる
心を整えるために必要なのは、自分の身体を整えるステップだという小原和尚。坐禅体験で、座り方から丁寧に教えてもらうことができます。
まずは座布団に腰掛けて、右足を左腿の上にのせます。次は左足を右腿の上にのせましょう。キツかったら無理をせずに楽な姿勢で大丈夫です。
座った後は、左手で右手の親指を軽く掴み、そこに右手をそえておヘソの下に持っていきます。いったん上から垂直に吊られているイメージをして、口から息を吐きつつ重心を下に持ってきましょう。顎は引いて、視線は正面よりやや下に。肩の力を抜き、息をゆっくり吐いて吸うことを繰り返しましょう。
座布団はしっかりと厚みがあり、そこに腰掛ける形で座るため、正座のように脚がしびれることもなさそう。教えてもらった座り方をすると、どっしりと大地に腰掛けているような安定感があります。
禅体験の時間が始まると、自分の身体に意識を向けるからこそ「なんだか肩に力が入っているな」「若干前傾している気がする…」と気になることだらけ。動きを通じて、身体に意識を向けるヨガに通じる部分があるかもしれませんが、日頃、どれだけ自分自身の身体について無自覚だったかがわかります。なんとか10分乗り切り、足を崩して休憩をします。
5分休憩を挟んだ後の10分は、慣れてきたためか前半よりも集中しやすくなりました。ずっと同じ姿勢を保つのはなかなか難しいですが、深い呼吸を意識し、雑念が浮かんでも、それをそのまま流すようにして、ただ「今、ここ」に集中します。
ふと、虫の声や、お堂を渡る気持ちの良い風が普段よりも鮮明に感じられる瞬間がありました。自分の呼吸や身体に集中すればするほど、周囲を認識する感覚が鋭くなるのは不思議ですね。
坐禅体験中はただ静かに座っている以外にも、小原和尚が集中しやすいように、仏教におけるものの捉え方や、自分の身体に集中するアドバイスをしてくれるので、それもありがたかったです。
坐禅を終えたあとは、身体が軽くなったような爽快感が。映画館で映画の世界から現実に引き戻されたようなフワフワとした感覚になりました。
美しい庭を眺めつつ、美味しいお茶と季節の和菓子で一服
坐禅体験のあとに運ばれてきたのが、季節のお菓子*とお茶です。
まずはお菓子から頂きます。筆者が訪れたのは夏だったため、出てきたお菓子は手作りのわらび餅でした。坐禅で集中していたという理由もあるかもしれませんが、ぷるぷるとしてもっちりとしたコシのあるわらび餅は絶品。ほんのりとした甘さが、疲れをとってくれました。
その後にいただいたお茶も、爽やかな抹茶の香りが素晴らしく、わらび餅と相性抜群でした。
お茶を楽しんだあとは、宗鏡寺のお庭を拝見させてもらいました。沢庵和尚の「心字の庭*」や「鶴亀の庭」など、どれも素晴らしいものばかり。ゆっくりと時間をかけて、素晴らしいお庭を堪能してみてはいかがでしょうか?
*茶道の中では季節に合ったお菓子をお抹茶と一緒に提供されることが一般的なので、季節ごとに異なるお菓子が提供されることになります。
*心字の庭...沢庵和尚が設計した禅庭(禅宗の精神を反映した庭)で、中央に「心」の字を象った石組みが特徴です。この庭は、静けさと瞑想の場として、多くの人々に心の平穏をもたらします。
*鶴亀の庭...池の形が鶴に見え、その中に亀の形をした島があります。この庭は、水辺で景色を楽しむことができる庭です。
坐禅の他に写経や写仏体験も
宗鏡寺では坐禅のほかに、写経や写仏体験もできます。写経とはお経を一字一句丁寧に書き写すことで、心を整え、仏様と向き合う修行の一つ。写仏は、仏様の姿を丁寧に描き写し、その姿勢を学ぶものです。
紙の下に敷いてあるお手本通りに書き写せばいいのですが、自分のちょっとした力の入り方や癖が出てきて、なかなか上手くいきませんが、途中からだんだんと楽しくなってきました。一つのことに集中するのは、気持ちが良いですね。
時間に限りがある時は、坐禅とお茶のみになりますが、「斎時(昼食)」も体験につけることが出来ます。かまどで炊いた炊きたての白米と、手作りのたくあんが楽しめます。
予約方法や服装の注意点をチェック
宗鏡寺での坐禅や写経の体験は、事前予約が必要です。こちらのサイトから予約の問い合わせを行えば、英語の通訳付きで体験をすることが出来ます。
また、体験後はご自由に拝観できるので、時間に余裕があると安心ですね。
脚を組んで長時間その姿勢を保つため、ゆったりとした服装をおすすめします。神聖な場所でもあるので、肌の露出の多いものも避けたいですね。あとはお守りを購入やお賽銭をする場合を考えて、現金(コイン)があると便利ですよ。
まとめ
日常の喧騒から離れ、心を整える坐禅体験。城崎温泉や出石に行く際は、ぜひ宗鏡寺で特別なひとときを過ごしませんか?
宗鏡寺(すきょうじ)
住所:兵庫県豊岡市出石町東條33(Google map)
営業時間:通常拝観は9:00~16:00 ※坐禅や写経体験は電話(0796-52-2333)にて要予約
定休日:無休
サイト:https://visitkinosaki.com/things-to-do/sukyoji-temple/
Date : 2024.10.28