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紅ズワイガニ『香住ガニ』を仲間とともに全国へ

公開日|2022年3月18日

兵庫県北部・香住。香住漁港で水揚げされた紅ズワイガニはブランドガニ「香住ガニ」として広く知られ、その身の甘さと質の良さが手の届きやすい価格で味わえると、人気を集めています。少しでも新鮮な状態で届けるために積み重ねてきた工夫や努力、そして香住ガニ漁への思いについて、兵庫県ベニガニ協会会長を務め、「福元丸」の船主・船頭として現役で漁へと繰り出す福本好孝さんに伺いました。

福本好孝(ふくもとよしたか)

福本好孝(ふくもとよしたか)

兵庫県ベニガニ協会会長。小型ベニカゴ漁船「福元丸」の船主・船頭。カニを生きたまま漁獲し港へと届ける「活けガニ」の取り組みを進めるほか、香住ガニ認知向上のためのPRや海洋環境の保全活動も積極的に行っている。

なぜ香住に紅ズワイガニ漁が残ったか

ある快晴の冬の日、紅ズワイガニを求め兵庫県を縦断して香住までやってきました。海岸にさざ波が打ち付けられる穏やかな日本海の景色、しかし、瀬戸内海のそれとは違った無骨さが感じられます。

「普段の日本海はこんなもんじゃない。特に冬場なんかは台風並みに海が荒れる日もあるし、体力勝負っちゅーか」。
こう語るのは、兵庫県ベニガニ協会の会長を務める福本好孝さん。40年以上にわたって香住ガニ漁に携わり、第一線で活躍してきたベテラン漁師です。

香住ガニとは、香住漁港で水揚げされた紅ズワイガニのこと。昭和30年代半ばまでは但馬地域の他の港でも紅ズワイガニの漁獲は行われていましたが、後半には香住漁港でしか水揚げされなくなり、『香住ガニ』として町を挙げてブランド化に取り組むようになりました。香住で紅ズワイガニの水揚げが残ったのは、その技術を持った漁師と、加工業を営む人々が特に多い地域だったからだと言います。

おいしくて、手の届きやすい香住ガニ

茹でる前から、鮮やかな紅色に染まった香住ガニ。カニは冬の食べ物というイメージが強いですが、漁は9月から5月にかけて行われます。また、松葉ガニとして知られるズワイガニが水深200~500メートルに生息するのに対し、香住ガニは水深800~1,500メートルのより深い地点に生息。ミネラルやプランクトンが豊富な海洋深層水100%の環境に棲むというのも特徴です。

「香住ガニは甘みが強くて、味が濃いのが最大の特徴。“甘くてジューシー”とも表現される」と福本さん。実際に頂いてみると、赤く美しい甲羅や足にぎっしりと身が詰まり、一口頬張るとカニの旨味が口いっぱいに広がります。ほんのりと甘みがある分くどさは感じられず、濃厚なカニ味噌もあいまって思わず夢中になるようなおいしさでした。

“鮮度が命”の活けガニへのこだわり

「香住ガニ漁はとにかく鮮度が命」と断言する福本さん。鮮度を保つことで、海の良いものを届ける“香住港ならでは”の付加価値ができればと、カニを生きたまま港へ持ち帰り販売する「活けガニ」の普及に、港を挙げて取り組んでいます。活けガニは一般的に流通する茹でガニに比べると身の詰まりが良く、プリプリとした食感が楽しめます。さまざまな調理法で味わえるのが特徴で、「生で刺身はもちろん、しゃぶしゃぶが一番のおすすめ。シンプルな味で食べる方が、おいしさをより感じてもらえるはず」とのこと。
活けガニの入った水槽を見せてもらうと、まるで海の中にいるかのようにのびのびと過ごしている香住ガニが。グッとつかんで水から引き上げると、元気よく足が動き、生きの良さを目の当たりにしました。

香住ガニは、その漁法も特徴的です。紅ズワイガニを捕獲するための特殊なカゴに、エサとなるサバを付けて海に沈め、それらを引き上げることで漁獲されます。1つのカゴに入るカニの量は、多ければ40~50匹ほど。しかし、中には全く獲れない日もあるそうで、「そういう時は、本当に誰とも話をしたくないくらい辛い」とのこと。水温1、2℃前後、水深800~1,500メートルの地点から一気に海上へと引き上げられることで、香住ガニは水圧の急激な変化にさらされ、水温変化もストレスとなって、途中で死んでしまうカニも少なくありません。それでも生きたまま水揚げされた強いカニは、活けガニとして競りに並ぶのです。

生きたまま水揚げされた貴重な活けガニの鮮度を落とさないため、船にもさまざまな工夫が。取り付けられた冷水機は海水を汲み入れ、カニが生息しているエリアと同じくらいの水温に冷やし、活けガニを入れた水槽へ海水を送ります。深海に近い環境をつくることで、カニは高い鮮度を保ったまま港まで届けられます。

また、香住ガニ漁は、出航してからカニを競りに出すまでがとてもスピーディー。沖から約50~150キロメートルほど離れたエリアで漁は行われ、10年ほど前までは1日以上かかっていましたが、技術の進歩で船の速度が上昇。19トンもの重さがある船は最大で55キロ程度まで加速し、出航から12時間程度で帰港するようになりました。冷水機で鮮度を保ち、スピードの出る船で素早く港へと戻る。高い技術と不断の努力が求められる紅ズワイガニの活け競りは、日本でも唯一香住漁港でのみ行われています。

「活けガニはとにかく手間がかかる。水温の管理は機械がやってくれるとはいえ、誤作動もあるし、水温の微妙な上下がカニにとっては命取りだったりもする。それをちゃんと管理しながら港まで無事に帰って競りに出すのはとにかく大変」と福本さん。それでも活けガニに挑戦するのは、より質の良い香住ガニを知ってもらいたい、味わってもらいたいと強く願っているからです。

仲間とともに香住ガニの未来を紡ぐ

現在59歳の福本さん。家業を継いで漁師となり、40年以上にわたって香住ガニ漁に携わってきました。鮮度を意識するようになったのは、過去の考え方に疑問を持ったから。

福本さんの父親世代が現役漁師だった頃は、大漁に獲ることが漁師としての実力の全てだと言われた時代。しかし、数を追うがゆえ、成体になる前のカニを乱獲することにつながり、個数は徐々に減少していったと言います。 「若い時は親父とはケンカばっかり。“需要に関係なく、とにかく量を獲ってナンボ”っていうのが上の世代の考え方やったけど、どうしてもそれが理解できへんかった。獲るだけじゃあかん、資源を守りながら需要を獲得せんと、獲っても無駄になってしまうと思ったんです」。

同じ香住ガニ漁に携わる漁師同士、仲間として切磋琢磨しています。(左から稲葉貴之さん、福本さん、稲葉広朗さん)

福本さんたちの世代は、香住ガニの減少に歯止めをかけることを決意。まずは資源回復へ向けて、量ではなく質で勝負することにしました。また、仲間とともにどうすれば鮮度の良いカニを届けられるのかを研究。茹でガニはもちろんのこと、価値の高い活けガニの供給を少しでも増やすことで、“香住ガニだからこそ、香住漁港だからこそ”というブランド価値を高める取り組みを行っています。

「やっぱり香住ガニを実際に食べてもらいたいし、おいしいと思ってもらいたい。そのために自分にできることなら何でもやるっちゅー気持ちで、今までいろいろと取り組んできた。県下のイベントで香住ガニを提供することで認知度を上げたり、役場に対して香住ガニの漁獲エリアの見直しを提案したり。ズワイガニ、毛ガニ、タラバガニが日本三大ガニとして知られとるけど、いずれはそこに香住ガニも仲間入りできたらうれしいなぁ」。

香住ガニの魅力を広く伝えるとともに、その資源を次世代にも繋いでいくための取り組みを行ってきた福本さん。その姿は、ほかの漁師にはどのように映っているのでしょうか。同じく香住ガニ漁を行う「栄福丸」の船主・船頭の稲葉貴之さんは、「常にいろいろ考えて香住ガニのために動いている、行動力のある人。頭の回転も速いし、この人についていきたいとみんなが思っています」と福本さんを表現。

「福本会長は頼りになる人。みんなを引っ張っていくパワーがすごいです」と「幸運丸」の船頭・稲葉広朗さん。

「いいアイデアがあれば、積極的に採用する。みんなで力を合わせて、知恵を出し合って……香住ガニをもっと有名にしたい、味わってもらいたい」と福本さん。香住の漁師からも、名実ともに揺るぎない信頼を集めているのが伝わってきました。

カメラを向けられると、「ワシよりも、若手の稲葉くん達を写したってくれ~」と茶目っ気たっぷりだった福本さん。しかし香住ガニについて尋ねると、一転して真剣な表情に。「現状に満足せず、香住ガニの活けガニとしての知名度がより高くなって、全国の多くの人においしい香住ガニを食べてもらえるようになれば。実際に香住ガニを食べてもらって、“このカニはおいしいなぁ、また来るわ!”と思ってもらえたら何より」と福本さん。その言葉通り、ほどよい甘みを含んだ旨味たっぷりの香住ガニは、一度食べるとぜひまた訪れたいと思わせてくれる逸品でした。おすすめの活けガニのしゃぶしゃぶは、新鮮なカニがすぐに楽しめる、まさに現地ならではの味わいです。

ユーモアにあふれた人柄で人々を惹きつけ、漁師としての男気と新たなことにチャレンジする先進性を武器に、香住ガニの未来を紡ぐ福本さん。活けガニと共に多くの人が香住に訪れるのを待っています。

<取材協力先>
兵庫県漁業協同組合連合会 但馬支所
http://www.hggyoren.jf-net.ne.jp/index.html

但馬漁業協同組合 香住支所
https://www.jftajima.com/

<福本さんの香住ガニが購入できる場所>